金剛山観光に中国人誘致
中朝首脳 6月に合意
金正恩朝鮮労働党委員長が北朝鮮南東部の景勝地、金剛山に本格的に中国人観光客を誘致することで習近平国家主席と合意していたことが分かった。北朝鮮が今後、国連制裁決議への抵触や米国の反発を恐れ金剛山観光の再開に踏み切れずにいる韓国に見切りをつけ、金剛山を訪れる中国人を通じ外貨稼ぎを図る可能性が出てきた。(ソウル・上田勇実)
制裁回避し外貨獲得
正恩氏、韓国に見切り
正恩氏は今年6月20日、21日に就任後初めて平壌を訪問した習氏との首脳会談で、中国政府が自国民による金剛山観光を支援することで合意した。南北経済協力に精通する関係筋が27日、本紙に明らかにした。
支援の詳細は明らかでないが、一度に巨額の観光収入を北朝鮮にもたらす団体ツアーは大量の現金移転を規制した国連安保理決議2094号に違反する可能性があるため、個人資格で金剛山観光に参加するよう奨励したり、事実上10年以上放置されているホテルなど各種施設や観光コースの再整備が柱とみられる。
北朝鮮への観光自体は制裁の対象外で、制裁対象に含まれる観光施設建設も北朝鮮投資の体裁を取れば問題視されない。
会談後、こうした合意内容は発表されなかったが、北朝鮮の党機関紙・労働新聞は訪朝前日の6月19日に1面で習氏が自らの訪朝目的などを記した署名入り文書を紹介。その中で習氏は「両国民間の親善的往来を拡大発展させ、教育、文化、体育、観光、青年、地方、人民生活をはじめさまざまな分野の交流・協力を拡大して両国の発展に貢献する」と指摘していた。
北朝鮮としては2月にベトナム・ハノイで行った2回目の米朝首脳会談が決裂した後、制裁解除に明確な道筋をつけられずにいた。中国から金剛山への観光客誘致を取り付けることで活路を見いだそうとしたとみられる。
23日の朝鮮中央通信によると、正恩氏は韓国企業の現代峨山が開発した金剛山地区の施設を「南側(韓国)の関係部門と合意して残さず撤去」するよう指示するなど韓国を揺さぶっている。こうした強気の発言は既に中国からの集客に一定のメドを付けていたため可能だったとみられる。
韓国統一省によると、北朝鮮は25日、今後決められる日に施設を撤去して持ち帰るよう促す通知文を韓国に送付し、その中で金剛山地区を「国際観光文化地区」として新たに開発する意思も伝えてきたという。正恩氏は同地区を北側に位置する元山一帯のリゾート開発と連携させる構想を持っているとされ、中国に投資誘致事務所を設置している。
正恩氏の撤去発言を受け、韓国側は対応を迫られている。康京和外相は24日の記者会見で「個人観光は制裁の対象ではないので結局は(南北間往来業務を行う)統一省が許可するかしないかの問題」との認識を示した。
現代峨山は2011年に北朝鮮から金剛山地区の資産凍結と50年間の独占事業契約の打ち切りを一方的に通告された。施設撤去まで余儀なくされた場合、同社による事業再開の道は事実上絶たれる。