韓国・文政権 親北側近が反日を主導

80年代に急進的学生運動

 2015年末の日韓「慰安婦」合意に基づき設立された元慰安婦支援財団の解散や元徴用工関連訴訟で相次ぐ日本企業に対する賠償命令判決と韓国内資産差し押さえの動きなどで冷え込んだままの日韓関係。この間、韓国側の強硬姿勢が目立っていたが、その背後に1980年代の学生運動に身を投じた文在寅政権の側近グループの存在が浮かび上がっている。(編集委員・上田勇実)

防衛駐在官の国外退去画策

 「文政権の政策立案と施行に絶大な影響を及ぼしている実質的な政策ブレーン」

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2018年5月31日、徴用工像が移された韓国・釜山の「国立日帝強制動員歴史館」前でもみ合う警察と市民団体関係者(時事)

 これは韓国有力誌「週刊朝鮮」に掲載された記事の一部だ。ここで言う「政策ブレーン」とは親北派の教授が多いことでも知られる聖公会大学で教鞭(きょうべん)を執り、一昨年9月から大統領直属の政策企画諮問委員会で委員長を務める丁海亀氏のことだ。

 同委は発足時、あまり注目されなかったが、これまで丁氏が提案する各種改革案の多くは文大統領によって採用され、国務会議で了承されてきたといわれる。正式な青瓦台(大統領府)側近ではないのに今や「文大統領に最も近い」(同誌)人物だ。

 丁氏はかつて親北左派のバイブルと称された『解放前後史の認識』(全6巻、79~89年、ハンギル社)の第4巻の著者としても知られる。同書は「朝鮮半島の南北分断は韓国に進攻してきた北朝鮮が一方的に悪いのではなく、米国や日本の支援を受けていた当時の韓国にも問題があった」「朝鮮動乱(50~53年)は統一運動の一環だった」などと主張し、現政権による反日路線の理論的源流をなすと言われる。

 文政権の側近や与党議員には学生運動出身が多い。最も急進的組織だった全国大学生代表者協議会(全大協)の歴代議長は任鍾皙・前秘書室長を筆頭に要職に就いた。歴史認識問題で日本との関係をこじらせた後も「文政権を誕生させたのは自分たちだというプライドが強いあまり排他的で、学生運動とは無縁の穏健左派が日本との関係改善を建議しても全く相手にされない」(保守系政治学者)という。

 彼らが頑(かたく)なに「反日」を貫くのは、文大統領が秘書室長として支えた盧武鉉政権の現実主義が失敗したことから得た教訓のためとの見方もある。保守派の意見も取り入れて米国との自由貿易協定(FTA)締結などを進め、国政運営のバランスを取ろうとしたが、最終的に保守派の支持を得られなかった。このため急進左派の支持層は、今度は自分たちの理念を前面に出そうと考えているという。

 現時点における対日関係の「理念」について、ある日韓関係筋はこう述べる。

 「日本植民地時代の独立運動を記念する日(3月1日)に文大統領が演説で強調した『親日残滓(ざんし)の清算』だ。親日残滓清算で頭がいっぱいだから日本に妥協できるはずがない」

 関係者によると、先月、在韓日本大使館に派遣されている防衛駐在官(駐在武官)が機密入手を図ったとして現地で告発され、危うく国外退去されそうになった。仮に退去されれば大きな外交問題に発展していたのは間違いない。レーダー照射問題で両国関係が険悪化していた時期に、韓国が必要以上に「日本叩(たた)き」をやろうとした可能性がある。

 今年2月、ソウル市内のある政府系シンクタンクで日韓関係をめぐり非公開の内部討論会が行われた。日本担当の研究員が元徴用工関連訴訟をめぐり韓国政府の消極姿勢をただすと、その場にいた幹部から発言を慎むよう間接的に言われたという。対日関係放置を見直す動きは鈍い。

 韓国は今月11日、日本統治が終わって保守派が宣言した48年8月15日とは異なる建国の日として上海臨時政府樹立100周年を大々的に祝う。「歴史立て直し」という理念に溺れ、まだ対日関係改善という現実課題に向き合おうとはしていないようだ。