悪態を続ける韓国を思う

元統幕議長 杉山 蕃

計算された意図的行動
日本は国際常識で冷静対応を

杉山 蕃

元統幕議長 杉山 蕃

 韓国の一連の反日行動はおよそ常軌を逸したものがあり、多くの読者は腹立たしい思いをしておられると拝察する。政府間で正式に合意した「慰安婦問題」の約定不履行、日韓基本条約で54年前に解決済みの「元徴用工」問題に対するおよそ一国の政府とは考えられない無責任な対応、海自自衛艦旗に対する一連の不躾(ぶしつけ)な行動、先の哨戒機に対するレーダー照射事案、そして国会議長にある人物の「天皇陛下」に対する不敬な言動、外相会談内容の発表に係る不誠実な言動等に、憤慨する人々の声を聞く。筆者はこれらの行動は、かなり計算された意図的なもので、韓国側はかなり巧妙に振る舞っていると考えている。特に軍事的側面からはその色合いが濃く、厳重に注意していく必要がある。

 先の大統領選挙における文在寅氏のキャンペーンの大きな柱の一つは「対話による南北問題の改善」にあった。両親が北朝鮮出身、学生時代から活動家としての経歴を持ち、廬武鉉大統領の補佐官、金大中大統領との緊密な関係等、左翼を代表する背景を有し、当然、対北融和的姿勢は頷(うなづ)けるものの、ますますエスカレートする状況は目に余るところがある。「国連決議による北朝鮮経済制裁」にもかかわらず、密貿易を容認する姿勢をはじめ、軍事演習の中止、大規模軍事訓練の制限、非武装地帯監視所の閉鎖等一人勝手な行動が顕著である。特に昨年9月、米国を差し置いて南北で合意した軍事協定は大変な後遺症を残してしまったと言える。その他、訪欧に際し、欧州諸国に北朝鮮制裁緩和を要請し、米国、日本を悪言し、国際世論を得ようとする動き等、大統領以下政府が一丸となって計算された言動を取っているように見える。

 この結果、韓国内世論調査では、従来約半数が北朝鮮を軍事行動の対象としていたものが10%を割り込み、和平・対話ムードに浸るに至った。そしてその分、嫌米・反日の雰囲気が高揚されているのである。この流れは文政権が「対話路線」の延長として、北朝鮮の主張する「朝鮮半島からの外国軍隊の撤退」すなわち、米韓同盟の解消、日米韓3国協調体制の決別を受け入れ、南北統一国家を目指すという最終目標に着実に進めているという見方ができる。従って、その里程で、日韓の亀裂は重要なポイントで、わが国の堪忍袋の緒が切れるまで執拗(しつよう)に反日行動を仕掛けてくる可能性が強いと思わねばならない。

 しかしながら、この米日との離反、南北対話統一の動向は、かなり大きな障害が存在し、現政権の思惑通りに進まないという現実も厳しい。障害の最たるものは、韓国民の民意である。就任以来高い支持率を得てきた文政権であるが、昨年11月以降急激に支持率が停滞し、本年に入ってからは、支持と不支持が共に40%台で均衡する状況に至っている。これは、昨年9月19日に締結した南北の「軍事合意」によるところが大きい。

 本合意は先述したごとく、米国を差し置き、締結したもので、大変な内容を含んでいる。特に「毒項」と言われる第1項で、「軍事衝突を招く恐れのある問題を平和的に協議し、いかなる手段によっても相手を攻撃占領しない」ことが明記されたことである。これは、韓国防衛の任にある在韓米軍、そして米韓連合軍という立場から見ると、米国を無視した形に見えるし、さらに重大なのは、「軍事的衝突の恐れのある問題」の拡大解釈により、大規模演習はもちろん、軍事装備品の新規調達までクレームを付けられる状態となってしまったことである。このままでは、防衛力整備、主要な演習という国の安全保障政策の根幹を「平和的に協議する」こととなり、別言すれば、北の承認が必要との拡大解釈が可能で、とても耐えられるものではない。保守勢力が反対運動の狼煙(のろし)を上げ始めた直接の原因と考えてよいだろう。

 在韓米軍の問題も大きな課題である。在韓米軍の撤収は、政変の都度話題となるが、在韓米軍の存在が果たしてきた地域安定への貢献をはじめとし、韓国大衆の受け入れられるところではない。

 今回の米朝会談の決裂により、北朝鮮問題は不透明さを増している。しかし、朝鮮半島の非核化という目標、核拡散防止条約(NPT)体制の堅守という世界の枠組みは変えられるものではない。この問題への対応は実に半島統一という目標にとって実は大きな障害となっているのである。こうして見ると、文政権の進めている日米の怒りを誘発する意図的な動きは完全に行き詰まったと言える。独立運動100周年といった韓国としての「力点」のイベントも大した盛り上がりもないまま経過し、文政権としては新たな取り組みを模索せざるを得ない苦しい状況となった。

 わが国としては、今後、反日行動がいかに展開されるか不透明であるが、都度毅然(きぜん)たる態度で国際的常識を堅持することが重要である。計画的に仕組まれた反日行動と腹を括(くく)れば、感情的に走る必要もなく、小賢(こざか)しい手練手管とのんでかかることもできる。日米の共通理解を基本に冷静な態度で臨めば、異常な言動は国際政治の場では、長続きするものではないと肝銘すべきである。

(すぎやま・しげる)