韓国・文政権、米朝仲介に限界

 決裂に終わったベトナム・ハノイでの第2回米朝首脳会談は、一貫して米朝対話を支持してきた韓国の文在寅政権に少なからぬ衝撃を与えている。文政権は米朝の仲介役を買って出てきたが、今回その限界を露呈。軌道修正を余儀なくされそうだ。
(ソウル・上田勇実)

 「結果においては極めて残念」

文在寅大統領

26日、ソウル市内の独立運動家の記念館で開かれた閣議で発言する韓国の文在寅大統領(中央)=韓国大統領府提供・時事

 会談決裂を受け4日開かれた国家安全保障会議(NSC)で文大統領はこう述べた。文大統領は寧辺核施設の廃棄や連絡事務所設置などが議題に上がったこと自体を「成果」と位置付けた。決裂直後には会談を「より高い(レベルの)合意に至る過程」とも評している。だが、会談が開かれること自体、何かしら合意に至るだろうという期待感が広がっていた。やはり文政権にとって決裂は青天の霹靂(へきれき)だったとみられる。

 文政権の米朝仲介路線を支持した韓国左派陣営にとっても「突然の決裂が大きな衝撃でないはずはない」(ハンギョレ新聞)。与党・共に民主党の執行部は、予定されていた合意文書署名をテレビ中継で視聴するため集まるはずだったが急きょキャンセル。会談に対する談話も与野5党の中で最も遅く出すという消極的姿勢だった。

 トランプ米大統領も金正恩朝鮮労働党委員長も「対話継続」を示唆し、「対話の枠組みまで壊れていないのは不幸中の幸い」(同紙)という楽観論も出ているが、「合意文まで作成されていた」(トランプ氏)状態での決裂はやはり異例だ。

 公開されていない秘密の北朝鮮ウラン濃縮施設の存在を米国側が指摘したことが決裂につながったと言われ、実際には対話再開にメドは立っていない。「合意に至る過程」と語るには状況は厳しく、決裂を擁護したい文大統領の苦しい弁明と言わざるを得ない。

 一方、文大統領は1日、日本統治期に起きた独立運動を記念する行事で演説し「これから私たちの役割がさらに重要になった。米朝対話の完全な妥結を必ず成就させる」と使命感を表明、新たな仲介役を果たそうとやる気満々だ。

 文大統領は中断されたままの金剛山観光、開城工業団地の操業について「米国と協議する」と述べ、両事業再開で米朝仲介の“活路”を見いだす考えを明らかにした。

 両事業は米国が北朝鮮に非核化の見返りとして与えるとの観測が出ていたもので、国連制裁決議の例外措置にできるよう新たな国連決議が検討されるのではないかという見方もあった。

 また両事業は金正恩氏が今年の新年辞で「無条件に再開する用意がある」と指摘。文大統領の発言は会談決裂で制裁緩和の道が遠のいた北朝鮮の苦境を事実上忖度(そんたく)し、“北朝鮮スポークスマン”ぶりを発揮したに等しいものだ。

 だが、両事業再開を米国に促すのであれば、北朝鮮に対しても非核化で踏み込んだ措置を求める必要に迫られる。「核問題の交渉相手は米国」というスタンスを崩さない北朝鮮を相手に韓国がどのように説得できるのか不透明だ。

 文大統領が仲介役を改めて自負しているのは、昨年の米朝初会談を前にトランプ氏が突如、会談中止を発表した際にそれに慌てた金正恩氏が文大統領と首脳会談をし、最終的に米朝初会談が成就した過去の経緯も関係していそうだ。米朝決裂でも、また南北首脳会談をすれば対話復活につなげられると考えている可能性は十分ある。

 ただ、米朝決裂の余波は南北関係にも及んでおり、これまでの「南北対話→米朝対話」という「方程式」通りに事が運ぶのか分からなくなった。

 特に昨年9月の南北首脳会談で約束された後、実現が遅れていた金正恩氏の訪韓は今回の会談決裂でさらに見通せなくなっている。2回目の米朝首脳会談の開催決定を受けて一時は今月末にも実現するのではないかと予想されていたが、「視界ゼロの状況に陥った」(韓国保守系メディア)。

 文大統領はまだその全体像が見えていない、会談での双方の見解差を正確に把握するよう関係閣僚に指示し、早期の米朝対話再開につながる南北関係の役割について考えるよう促したが、北朝鮮流「非核化と見返り」に米国が応じる気配を見せない間は、北朝鮮にとって韓国との対話を進める意味は大きく後退するほかない。