韓国 文政権 南北融和で反日抑制

 韓国の文在寅政権が反日色を抑えている。日本統治からの解放日を祝う恒例行事で文大統領はお決まりの日本批判を一切せず、今年から法定記念日となった「慰安婦を称える日」の式典も日本をはじめ外国メディアへの取材が制限された。南北・米朝首脳会談で動き出した朝鮮半島の対話ムードを壊したくないため、日本をいたずらに刺激するのは得策ではない、との判断が働いているようだ。(ソウル・上田勇実)

光復節の演説で批判ゼロ
市民団体突き上げに対応苦慮も

 「私が知っている限り、光復節(統治解放日)演説で韓国大統領が日本を批判しなかったのは今回が初めて」

和解・癒し財団

ソウル市内にある「和解・癒し財団」事務所。更新月だった先月、オフィス面積を大幅に縮小した=16日、上田勇実撮影

 韓国市民団体「民族問題研究所」の金敏喆・責任研究員はこう述べた。反日色の濃い左派系市民団体は毎年、日本批判の文句を盛り込むよう青瓦台(大統領府)に要請し、ほぼ受け入れられてきた。ところが今年は勝手が違った。「青瓦台首席秘書官の会議で日本批判は演説文に入れない方がいいと判断された」(金氏)という。

 その前日、文大統領は中部・天安の国立墓地「望郷の丘」で行われた「慰安婦を称える日」記念式でも演説し、ここでは「反省」を求めた。だが、それは「われわれ自身(韓国)と日本を含む世界」に対し、一般論として性暴力や女性人権蹂躙(じゅうりん)などの問題への取り組みを促すものだった。

 この日、韓国政府は日本をはじめ外国報道機関の式典取材を制限、いわゆる従軍慰安婦問題で韓国が日本を批判する映像や写真、記事が出回るのを必要最小限にとどめたかったとみられる。

 こうした反日抑制について専門家や反日団体関係者らは「今の南北融和ムードが影響している」と口を揃(そろ)える。

 世宗研究所の陳昌洙・日本研究センター長は「最近の政府内議論は米朝対話がどうなるか、南北関係をどうするかが大半で残り少しが中国。日本は議題にあまり上がらない。日本も直接、間接に関係してくる北朝鮮の非核化や終戦宣言などの問題を進めたい韓国政府としては日本を刺激したくないはず」と指摘した。

 問題は2015年末の日韓「慰安婦」合意の行方だ。

 文大統領は前述の「慰安婦を称える日」式典で慰安婦問題が「韓日間の外交紛争に発展しないことを望む」とする一方、「外交で解決できるとは考えていない」と述べ、改めて合意を否定した。外交決着を図った合意を履行するよう韓国に求め、それに応じない韓国への不信感を募らせる日本側とは相容(あいい)れない立場だ。

 合意に基づき元慰安婦への癒し金支給などを行ってきた「和解・癒し財団」の扱いも争点だ。

 先月、理事たちは任期満了を前に辞表受理を政府に求めたが、一向に回答がないという。受理すれば財団は解体に向かい合意は破棄され、拒否すれば財団存続で合意履行の意思ありと映るが、何もせず破棄なのか履行なのか分からない宙ぶらりんの状態が続いている。「財団の扱いを決めた瞬間が文政権の対日政策がハッキリする時」(許光茂・同財団事務処長)とも言える。

 文大統領は演説で「未来志向」に言及したが、反日市民団体の突き上げは激しく、「ガス抜き」程度の反日で鎮静化させられるかは不透明。「次は徴用工問題が待っている」(金淑賢・国家安保戦略研究院研究委員)との見方も多く、関連裁判の行方や徴用工像設立などへの対応で反日抑制をどこまで利かせられるか難しい舵(かじ)取りを迫られそうだ。