核保有に固執する金正恩氏

宮塚コリア研究所代表 宮塚 利雄

北の体制維持と身辺保護
コロナ感染を脱北者のせいに

宮塚 利雄5

宮塚コリア研究所代表 宮塚 利雄

 金正恩朝鮮労働党委員長は強運の持ち主のようだ。世界中の指導者が中国・武漢発の新型コロナウイルス禍への対処に苦慮しているのに、金正恩委員長は黄海北道黄州郡の光川養鶏工場の建設現場を現地指導した時、左手にタバコを挟みながら、あれこれ指示している様子が「労働新聞」に掲載された。

 金正恩委員長がタバコを指に挟んで現地指導している姿はこれまでもあった。昨今の時節柄、場所柄も弁(わきま)えないこの不謹慎な指導者は、「わが国には新型コロナウイルス感染者はいない」と嘯(うそぶ)きながら、卑怯(ひきょう)にも随行させた朝鮮人民軍の朴正天総参謀長や金秀吉総政治局長、妹の金与正党第1副部長などにはマスクを付けさせないのに、現地の工事関係者たちにはマスクを付けさせていた。

南北国境たやすく往来

 北朝鮮でコロナウイルス感染者が発生し、死者も多く出ていることは誰もが承知のことである。だが、世界保健機関(WHО)に「感染者ゼロ」と言ってしまった以上、今になって「実は中国・武漢発の新型コロナの感染者がわが国にも発生していました」とも言えずに、悶々(もんもん)としていた。その矢先に、「北朝鮮、コロナで開城閉鎖」というニュースが伝わってきた。

 このコロナウイルス感染者は2017年に北朝鮮から韓国に泳いで脱出してきた青年で、北朝鮮はこの事件を最大限に利用した。朝鮮中央通信は7月26日、「韓国から北朝鮮南西部の開城市に戻った脱北者が新型コロナウイルスに感染している疑いがあることが判明し、開城市が24日から完全閉鎖された」と報じた。

 これは金正恩委員長にとって、まさに「千載一遇」のチャンスで、朝鮮労働党政治局非常拡大会議を緊急招集し、国家非常防疫体制を「最大非常体制」に引き上げること決定し、開城地域には「非常事態」を宣言した。金正恩委員長は会議で「6カ月間、強力な防疫対策を講じ、感染経路を全て封鎖したのに、ウイルスが流入したとみなせる危険な事態が発生した」と指摘し、「現実を重大に受け取るべきだ」と危機感を示した。

 金正恩委員長は「わが国のコロナウイルス感染者は南朝鮮からの脱北者からもたらされたものである」と感染の疑いを公表することによって、諸悪の根源は「韓国からの脱北者」にあると脱北者に責任転嫁し、併せて国内の防疫体制を一層引き締めることを図った。

 この20代の開城出身の青年は行きも帰りも、韓国と北朝鮮双方が厳重な警備体制にあるといわれる国境地帯を、いともたやすく往来したのである。韓国と北朝鮮の国境警備状況は「口先だけの厳重な警備体制」ではないのか。

 金正恩委員長は朝鮮戦争の休戦協定締結から7月27日で67年を迎えるのを前に、平壌で25日に開かれた「第6回全国老兵大会」に、新型コロナウイルスの防疫徹底を強調する中でもマスクを付けずに会議に出席。一方、参加した老兵は皆、軍服にマスク姿であった。

 この会議で金正恩委員長は「頼もしく効果的な自衛的核抑止力によって、この地にもはや戦争という言葉はない」と強調し、「敵対勢力のいかなる形態の圧迫や軍事的威嚇にも揺るぎなく自らを守れるように変わった」と、北朝鮮が「核保有国」へ発展する道を歩んできたことを正当化した。金正恩委員長は「自衛的核抑止力で国家の安全と未来は永遠に保証されるだろう」とも語り、「核のない北朝鮮はあり得ない」とし、今後とも核を保有し続けるという意思表示をした。

軍事力強化の加速指示

 金正恩委員長はすでに7月18日に開かれた朝鮮労働党中央軍事委員会と非公開会議を平壌で開催し、「戦争抑止力をさらに強化するための核心問題」を討議し、核・ミサイル開発を含めた軍事力強化を加速させることを指示していた。

 金正恩語録にいわく「核のない北朝鮮はあり得ない」ということである。「核保有国」を自ら誇大宣伝するのも、何のことはない、自らの体制護持と身辺保護のための核保有であることに変わりはない。北朝鮮では7月27日の朝鮮戦争休戦協定記念日を、「7・27祖国解放戦争勝利記念日」と言っているが、韓国も北朝鮮は休戦協定には調印はしていない。

(みやつか・としお)