韓国検察 元幹部に実刑求刑、「文在寅は共産主義者」発言は罪?
韓国で「文在寅は共産主義者(韓国では親北主義者と同意)」と発言した元検察幹部が名誉毀損(きそん)で訴えられた裁判で、検察が一審無罪を不服として控訴、再び実刑を求刑し波紋を広げている。文氏には北朝鮮の体制や主義主張に傾倒した幾多の言動が明らかになっているが、検察は大統領の顔色をうかがって強引に有罪に持ち込む構え。仮に有罪判決が下りれば韓国の親北化に拍車が掛かるのは必至だ。
北朝鮮傾倒でも大統領を忖度
有罪なら親北化に拍車
訴えられているのは公安畑が長かった高永宙・元ソウル南部地方検察庁検事長。2013年、ある保守派の集まりで「文在寅は共産主義者。この人が大統領になったらわが国が赤化されるのは時間の問題」と発言し、これが明るみになった15年に当時、野党代表だった文氏から告訴された。
検察は発言が「虚偽事実による名誉毀損」だとして文氏が大統領になった直後の17年9月に高氏を在宅起訴。翌年の一審判決では「発言は事実摘示ではなく評価ないし意見の表明」にすぎないことを理由に無罪が言い渡されたが、検察側が控訴し、今月2日の結審で懲役1年6月の実刑を求刑した。
なぜ高氏は文氏を共産主義者と呼ぶのか。高氏は本紙取材に「そう確信する理由がある」として「北朝鮮の体制や主義主張に傾倒してきた文氏の言動」を挙げた。
例えば「朝鮮半島を北朝鮮主導で統一することを念頭に入れた在韓米軍撤収や国家保安法廃止に肯定的」である点や「強硬親北派が国家転覆を企てた事件と深い関係にある極左政党、統合進歩党の理念『進歩的民主主義』を志向している」こと、さらに大統領就任後では「ハノイでの米朝首脳会談が決裂後、非核化に踏み出さず制裁解除を望む金正恩氏を擁護」したことだ。このほか「“状況証拠”は枚挙にいとまがない」という。
仮に高氏の発言が検察の主張する「事実摘示」だとしても、「文氏を共産主義者と確信する十分な根拠があり、刑法の違法性阻却事由(違法性が推定される行為に違法性がないと判断する理由)に該当するので無罪判決が下されて当然」(高氏)なのだ。
実は高氏と文氏は長年にわたり悪縁だ。1981年、南東部の釜山で起きた親北主義者による地下活動事件で、まだ駆け出しの高氏は担当検事として国内の左翼学生組織に切り込んでいった一方、学生たちを弁護した一人が弁護士なりたての文氏だった。
03年、高氏は公安検事としての実績を買われ、法相に公安検事トップの大検察庁(最高検)公安部長への就任を強く打診されたが、青瓦台がその人事を却下。検察人事を含む法務行政全般に権限を持つ民情首席秘書官として当時、青瓦台入りしていたのが文氏だった。
韓国国内の親北派摘発に検事人生の大半を費やしてきた高氏と親北派として韓国政治のトップに上り詰めた文氏が、今度は当事者同士として法廷で争うことになった。まさに因縁の対決だ。
高氏は最終陳述で「共産化を防ぐべき公安検察が大統領である告訴人の顔色をうかがい、国家的危険を警告した私を処罰することに血眼になっている」と、後輩検事たちへの失望を露(あら)わにした。北朝鮮に傾倒する大統領であったとしても、組織で生き残るには大統領を忖度(そんたく)するしかないという保身主義への憤慨でもある。
また高氏の弁護人は最終弁論で、今回の裁判は「最高権力者を批判できる自由が現在の韓国でどれほど与えられているかを測る目安」で、有罪なら「韓国民主主義の危機」と警鐘を鳴らした。
保守系論客の趙甲済氏も自身の動画チャンネルで「共産主義者を見て共産主義者と呼んだことが処罰の対象ならこの国はもう共産化されたのも同然。この裁判には韓国の生存、命運が懸かっている」と危機感を募らせた。
判決公判は来月9日の予定だ。
(編集委員・上田勇実)






