韓国総選挙、慰安婦団体トップが当確圏

「親日派」処罰法 成立に拍車か

 いわゆる従軍慰安婦問題をめぐる2015年の日韓政府間合意の破棄を働き掛けるなど歴史認識問題で常に過激な反日の主張をしてきた市民団体トップが、今月15日の韓国総選挙で当選確実圏である与党系比例代表名簿の上位に登録され、物議を醸している。与党が準備を進める「親日派」を処罰する法案の成立に拍車がかかるのではないかと危惧する声も上がっている。(ソウル・上田勇実)

原案「支援の日本人も対象」

 物議を醸しているのは「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯(正義連)」(旧、挺身隊問題対策協議会)の尹美香(ユン・ミヒャン)理事長(55)。与党・共に民主党が比例代表用に急ごしらえした共に市民党で比例7番になった。尹氏は先日、あるネットメディアのインタビューにこう答えた。

尹美香氏

在ソウル日本大使館前の反日デモで演説する尹美香氏(2018年12月、上田勇実撮影)

聞き手:尹候補が一番嫌いなのは日本のようだが。

尹氏:その通りだ。

聞き手:国会議員になったら日本との問題をどう解決していくか。

尹氏:日本軍性奴隷を含む強制動員問題をどうやって制度的、政策的に解決するかが重要。過去の歴史清算や人権、平和の価値が経済・安保問題の後回しにならないようにしたいが、問題解決の主体は日本。日本の市民、過去には民主党、現在も共産党や社民党などの日本の国会議員たちは私たちが連帯できる相手だ。

 地方で尹氏と同様に元慰安婦を支援する「挺身隊ハルモニと共にある市民の集い」の徐赫秀代表は「8年前の総選挙で元慰安婦を比例代表に入れようとしたが実現しなかっただけに、尹氏の出馬は嬉(うれ)しい。政治レベルで問題解決できるのではないかと期待している」と話す。

 尹氏が国会議員として活動を始めた場合、日韓関係への悪影響もさることながら韓国国内で政府・与党による保守派叩(たた)きがエスカレートする可能性が高い。

 韓国社会の行き過ぎた反日主義に対する批判本『反日種族主義』の著者の一人、朱益鐘氏はこう危惧する。

 「与党は慰安婦や強制動員、徴用などの被害を否定する人を取り締まる歴史否定罪処罰法の準備を進めているが、尹氏が当選すれば法案成立に拍車がかかるのではないか。尹氏は市民団体にいた頃、すでに外交を左右するほどの影響力を持っていた」

 与党シンクタンク民主研究院は同法案と関連し昨年、韓国で「独島(日本名・竹島)の日」としている10月25日に合わせ、所属研究員名でその原案を発表した。同研究院は「反日路線は総選挙で与党に有利」とする報告書を密(ひそ)かに配布して波紋を広げたいわくつきの機関だ。

 そこには「日帝(日本の植民地統治)侵略と戦争犯罪の歴史的事実を歪曲(わいきょく)・捏造(ねつぞう)して擁護する行為は純粋な学術活動や学問ではなく、政治勢力化を目的とする扇動行為」であり、これを放置すれば「国家アイデンティティー、憲法精神、民族正気が損なわれる恐れがある」ので、これらに該当する「韓国人と外国人を処罰対象とする」とある。歴史問題で韓国保守派を支援する日本人も処罰の対象に加えるというから驚きだ。

 今回の選挙に出馬した与党候補を見ると、親日派清算に積極的な顔触れが目立つ。青瓦台国政企画状況室長出身で文大統領の腹心と言われる尹建永氏の場合、活動期間が終了した「親日反民族行為真相究明委員会」を延長すべきだと主張したこともある。

 韓国保守派は、自分たちの歴史観に合わない者は処罰するという左派政権の暴挙にこれまでほぼ無為無策だったことへの反省からか、今回、尹氏の対抗馬として保守系野党・未来韓国党から同じ当確圏の比例代表7番に女性歴史学者を出馬させた。国会で尹氏と歴史認識をめぐり舌戦を繰り広げることになる。

 すでに日本政府は尹氏の出馬に警戒を強めている。「私もこのくらい(警戒される)なら立候補した価値があるというもの。それほど私の活動に恐れを抱く人たちがいることを逆に反証している」(尹氏)-。挑戦的とも言えるその態度に日韓関係改善の意思は見られない。