イスラエル 、コロナ危機で政局一変
政局の混乱が長期化するイスラエルで、最大野党「青と白」を率いるガンツ元軍参謀総長が、これまで拒否し続けてきたネタニヤフ政権との連立交渉に踏み切った。新型コロナウイルスの感染拡大に挙国一致で対応するためだ。コロナ危機という国難を迎えることで、政局は大連立政権の樹立へ向けて舵(かじ)が切られた。(エルサレム・森田貴裕)
「青と白」ガンツ氏、大連立へ
極右「わが家」は反発
1年以内で3度目となるイスラエル総選挙(国会定数120)が3月2日に行われた。総選挙で第2党となった中道野党連合「青と白」(33議席)のガンツ元軍参謀総長は16日、議席を得た各党の61議員から首相候補の推薦を得たため、リブリン大統領から連立政権発足に向けた組閣作業に入るよう指示された。
ガンツ氏支持の61議席は、反ネタニヤフ政権を前提とした議席数であり、その中には対立関係にある極右政党とアラブ系政党が含まれる。数字上では過半数を確保しているものの、政権発足へのハードルは高い。そのためガンツ氏は、アラブ系政党を除いた少数政権を発足させ、アラブ系政党の閣外協力で政権を運営していくことも検討していた。
ところが、ガンツ氏はこれまでの反ネタニヤフ政権の方針を転換し、国内で新型コロナの感染拡大が深刻化しているため「緊急の挙国一致政府」を目指す必要があるとして、ネタニヤフ首相が率いる第1党の右派与党リクード(36議席)との大連立を訴えた。26日には国会で新たな議長を選ぶ投票が行われ、自ら名乗りを上げたガンツ氏がリクードを中心とする右派・宗教勢力の支持を得て多数の賛成で議長に選出された。新議長となったガンツ氏は「コロナ危機の中で、内部対立をしている時ではない。責任ある愛国的な指導力を発揮する時だ。一丸となってこの危機を乗り越えよう」と語った。
収賄罪などの汚職事件で起訴されたネタニヤフ氏の退陣を求めてきた「青と白」の一部議員は、ガンツ氏の急な方針転換に強く反発し、投票をボイコットした。共に「青と白」の共同代表を務めるラピド氏は「戦わずして降伏した」などと、ガンツ氏を非難。イスラエル回復党、未来がある党、国民政治運動党から成る連合政党の「青と白」は分裂した。
「政権交代の希望に終止符を打った」と非難の声も上がる中、ガンツ氏を支持するイスラエル回復党の有権者のほとんどは、大連立の決定を支持しているようだ。チャンネル12の世論調査によると、「青と白」の有権者の56%がガンツ氏によるネタニヤフ政権との大連立への動きを支持しているという。
報道によると、ネタニヤフ氏とガンツ氏の両陣営は28日夜、新型コロナ感染拡大による緊急事態に対処するための次期連立政権樹立に向けた会合を開き協議を行った。かねて「青と白」との大連立を訴えていた与党リクードを率いるネタニヤフ氏は、合意された期間内で首相を辞任し、その後をガンツ氏が引き継ぐことを約束して、新型コロナ危機に取り組む連立政権を提案。ネタニヤフ氏が初めの1年半首相を務めた後、来年10月にガンツ氏が引き継ぎ1年半務めるという。ネタニヤフ氏は「新型コロナとの闘いに勝つために、われわれは団結し統一政府に向かっている」と国民にメッセージを発した。
打倒ネタニヤフ政権でガンツ氏を支持すると表明し政権交代を目指していた極右「わが家イスラエル」を率いるリーベルマン氏は、「ガンツ氏には間違いを犯す権利がある」と述べ、ガンツ氏の百八十度の方針転換を非難した。
収賄罪などで起訴されたネタニヤフ氏の初公判は、当初3月15日に予定されていたが、新型コロナ感染拡大危機を受けて5月24日に延期された。イスラエル検察は、通信大手に便宜を提供する見返りに、傘下のニュースサイトでの自身に有利な報道を要求したなどの容疑で、ネタニヤフ氏を収賄と詐欺、背任の罪で起訴していた。ネタニヤフ氏は一連の疑惑について否定を続けている。
ガンツ氏は、大統領に組閣期限の2週間延長を要請した。4月13日の期限は、イスラエルの法律により27日まで延長され、過ぎ越し祭の終わる15日以降に次期政権が発足するとみられる。






