中国新経済モデル目指す習近平氏

鄧氏に代わるリーダー像模索

中国投資コンサルタント 高田 勝巳氏に聞く

 米中経済摩擦が高まる中、日本は中国とどう付き合えばいいのか。上海を拠点に日本企業の中国進出をサポートしている(株)アクアビジネスコンサルティング代表取締役の高田勝巳氏に、中国経済の実態と日中関係の今後を伺った。
(聞き手=フリージャーナリスト・多田則明)

米国と再びディールへ
共産党政権維持が最優先

2007年発行の張志雄氏との共著『中国株式市場の真実』では中国共産党の一党独裁下での株式市場の実態を赤裸々にしたが、その後の変化は。

高田勝巳氏

 たかだ・かつみ 上海在住26年。日系企業の中国ビジネス構築を支援しながら、中国経済の動向を「現地の視点・鋭い分析・分かりやすい言葉」で日本に発信している。三菱東京UFJ銀行本部証券部門、上海支店等を経て2002年より(株)アクアビジネスコンサルティング代表取締役。共著書は『中国株式市場の真実』(ダイヤモンド社)。

 基本的には変わっていない。中国において株式の上場と資金調達を認めることは、特定の個人に対する市場からの安い資金調達を実現する権益の付与であり、純然たるマーケットの概念には完全には当てはまらない。中国では、多くの上場企業も何らかの権益に関わることでコアになる収益モデルを持っていて、それには何らかの形で共産党の息が掛かっている。ネット通販大手のアリババ創業者のジャック・マー氏も、成功要因のきっかけはソフトバンクの投資を受けたことかもしれないが、その後、共産党のサポートがなければここまで飛躍的に成長することはなかっただろう。

米国はそうした中国の経済構造の変革を迫っている。

 国営企業の権益を民間に払い下げることで中国経済は発展するというのが李克強首相の博士論文で、それが中国の発展余力の一つだと中国の経済学者も指摘している。習近平氏が中国のトップになったのは、彼以外にそうした勢力とのバランスを取ることができるリーダーがいないからではないか。今の中国は権益再分配と調整という、ある意味革命的な作業が迫られており、米中交渉は、習氏と既得権益集団との交渉とも言える。

それが可能な権力や経済の基盤は出来ているのでは。

 中国がここまで豊かになったのは、ソ連との冷戦を終わらせたい米国に妥協し、ソ連に対抗するため鄧小平氏がつくった経済モデルによるものだ。中国は、米国と提携することにより、日本からの経済援助と米国市場へのフリーアクセスという収益モデルを獲得し、「世界の工場」と呼ばれるようになった。米国企業も中国の安い人件費を利用することで、自国の継続的経済を成長に利することができ、1985年のプラザ合意で円高になった日本が中国に生産拠点を移すことも中国の産業構造の高度化に寄与した面もある。

 それに対して習氏は、鄧氏に代わるリーダー像をつくり上げようとしているようだ。そのためには米国ともう一度ディールし、国内の権益構造を調整し、新しい経済モデルを構築する必要がある。それができれば習氏は真に鄧氏に並ぶ中興の祖となるだろうが、まだ不透明だ。

共産党独裁下で新しい経済モデルはできるのか。

 聞いた話では、権益の委譲は進めるが、民間が強くなり過ぎて、共産党のコントロールが効かなくなるのが恐いという考えが、共産党では根強いようだ。既得権益層は超リッチなので、われわれからするとこれ以上豊かになってどうするのと思えてしまうが、それよりも、共産党支配の維持が最優先の課題のようだ。おそらくは、そういう矛盾を抱えながらも、徐々に構造改革を進めざるを得ないだろう。

 これまで中国を一番儲けさせてくれている大事な客を怒らせてしまったのが米中経済戦争の原因で、背景には、鄧氏と違う路線を打ち出したいという習氏の焦りがあるとみている。南海諸島への進出や一帯一路などは、鄧小平時代には経済状況や米国との関係でできなかったか、あえてしなかったことだ。

習氏は2050年には経済で米国を抜くと言っている。

 中国の夢である「中華民族の偉大なる復興」を目指す彼を、周辺の人たちが威勢のいい話で焚(た)きつけ、乗せられている面もあるかもしれない。中国の産業構造を変革しないといけないのは誰が考えても明らかで、経済レベルに留(とど)めず、軍事的覇権にまで挑戦しようとしたので米国を怒らせてしまった。

 中国が見誤ったのは、リーマンショックで大不況になった世界が米国を筆頭に中国に頼ったことで、自信を持ち過ぎたのかもしれない。9・11同時多発テロで米国の目が中東に釘(くぎ)付けになったことが、中国に軍事力増強の余裕を与えた背景もある。

 中国人には、史上最大の中華帝国を築きながら、最後には列強に侵食された清朝の歴史がトラウマになっている。戦後も、経済では敗戦国の日本の後塵(こうじん)を拝するようになった。それが近年の経済発展で舞い上がったのも不思議ではない。

富裕層が増え中国にも世論が形成されているのでは。

 日本に旅行に来ているような中国人はうまくやっている人たちで、逆に日本の物価の安さに驚く面もある。すると、彼らを豊かにしてくれたのは共産党なので、共産党の不正や不公平を知っていても、それを壊そうとは思わない。中国人には思想よりもお金が大事な人が多い。

 共産党の統治は巧みで、言うことを聞いている間は不正も見逃すが、歯向かった途端に暴いてしまう。不正に手を染めないで豊かになった人たちは、今の暮らしに満足していて、現状を変えようとは思わないようだ。経済的に豊かになれば中間層が増え、政治的自由への要求が高まるという米国の希望的観測は、中国には当たらなかった。

そんな中国と日本はどう付き合えばいいのか。

 米国との同盟を維持しながら、経済的にはできるだけ自立的に中国と付き合うことが必要だ。中国は今、日本の技術やノウハウを必要としているので、そこに日本企業のチャンスがある。

 例えば、私は最近、日本の水素エネルギー関連や、ゴミ処理の装置の導入を手掛けているが、今の中国に役立つ技術が日本には数多くある。中国もやがて日本以上のスピードで高齢化を迎えるので、介護に関わる技術やノウハウも日本の蓄積が役立つ。そうやってあらゆる分野で協力関係を築くことが、日中相互の発展をもたらすであろう。