ウクライナ東部の紛争問題
ウクライナのゼレンスキー大統領が、親露独立派が実効支配する同国東部のドネツク、ルガンスク両共和国との紛争解決に踏み出した。両共和国に「特別な地位」を付与するという「シュタインマイヤー・フォーミュラ」に同意すると表明したのだ。これに野党勢力は反発し、抗議運動を繰り広げた。
(モスクワ支局)
解決に踏み出す大統領
「特別な地位」付与に野党は反発
ロシアが2014年、ウクライナのクリミア半島を併合した。これと並行して、ロシアに接するウクライナ東部のルガンスク、ドネツク両共和国(ドンバス地域とも呼称)では、親露独立派武装勢力が両共和国のロシアへの併合を求め、政府側との戦闘(ウクライナ東部紛争)が勃発した。
ロシアが親露独立派武装勢力を支援したとみられているが、両共和国を併合する考えはない。独立派は「ドネツク、ルガンスク両人民共和国」を自称し、実効支配地域を拡大した。
ドイツとフランスが仲介した「ミンスク合意」により15年2月、一旦は停戦したものの、その履行をめぐる双方の隔たりは大きく、合意は崩壊。現在に至るまで散発的な戦闘が続いている。このミンスク合意の内容の一部を柔軟に適用する枠組みを、当時のドイツのシュタインマイヤー外相(現連邦大統領)が主導しまとめた。しかし、このシュタインマイヤー方式についてもウクライナ側の反発は強く、合意には至らなかった。
ミンスク合意では、①ウクライナの憲法を改正してドネツク、ルガンスク両共和国に「特別な地位」を付与②ウクライナ法に基づく選挙を実施③その後、両共和国の対ロシア国境管理をウクライナに移管―との流れで和平を実現するとしている。しかし、ウクライナにとっては、①両共和国の対ロシア国境管理をウクライナに移管②両共和国武装勢力の武装解除―がまず第一であり、その後に選挙を行うことが譲れない条件だった。
シュタインマイヤー方式では、これらをすべて同時に行うとしているが、ウクライナが要求する①について明確にされてない。結局、ウクライナは同方式も受け入れることができず、紛争状態が継続していた。
ゼレンスキー大統領はこれまでロシアを侵略者として非難してきたが、交渉の必要性には言及していた。そのゼレンスキー氏が2日、シュタインマイヤー方式を受け入れることを表明したのだ。これに対し、野党「欧州連帯」を率いるポロシェンコ前大統領や、「祖国」のティモシェンコ元首相などが「これはロシアへの降伏を意味する」として激しく反発。さらに、ウクライナの知識人らも同様に反対を表明する事態となった。
キエフ中心街で6日に行われた抗議集会には1万人を超える人々が集まった。また、伝統的に反露感情が強いウクライナ西部の各州でも抗議運動が広がった。
もちろん、ロシアと交渉に臨むこと自体への反発も強い。ウクライナのテレビ局「プリモイ」のキャスター、ミコル・ヴェレセニ氏は、「ロシアは独立国家としてのウクライナにとって、本質的に敵である」と吐き捨てた。
ゼレンスキー氏もそのことは理解しているようだ。シュタインマイヤー方式を受け入れると表明した上で、「(ルガンスク、ドネツク両共和国で)選挙が実施されるのは、国境管理がウクライナに移管され、武装勢力の完全な武装解除が行われた後だ」と表明した。しかし、その条件を、これまで一貫して反発してきたルガンスク、ドネツク両共和国の独立派武装勢力がのむことはないだろう。このままでは和平交渉が行き詰まることは目に見えているが、それならばなぜ、シュタインマイヤー方式を受け入れると表明したのか。ゼレンスキー外交に疑問符も付いている。







