イノベーション力、独裁下で欠落する創造性
中国の「赤いシリコンバレー」と呼ばれる深圳市の技術開発力が大きな評価を得ている。確かに世界シェア7割を占めるドローン企業DJIや顔認証や音声認証ソフト、人工知能(AI)搭載のカメラなどで圧倒的存在感を誇示する。
だが、中国はこれまで破壊的な創造をもたらすような革新的技術を開発したことがない。世界トップクラスの時価総額を誇る中国電子商取引最大手、阿里巴巴(アリババ)集団にしても、既存技術の活用ではあっても革新的技術ではない。
無論、政府が補助金をつけ、人口14億人の中から優秀な人材を抜擢(ばってき)することも可能な中国で、何かが生まれることはあるだろう。だが、独裁体制下、ダイナミックに経済を底上げするような革新的イノベーションを起こす力があるのかというと話は別だ。
拓殖大学海外事情研究所の澁谷司教授は「中国最大の問題は、創造性の欠落だ」ときっぱり言う。
さらに台湾出身の評論家、黄文雄氏は「中国が独創力に弱いのは、暗記中心の科挙試験に起因する」と中国の歴史的呪縛に言及する。
そもそも、国主導のトップダウン方式でイノベーションを生み出すのは難しい話だ。しかも、言論の自由もない独裁体制の下であればなおさらだ。
AI、量子コンピューター、半導体など先端技術部門で世界のリーダーを目指す中国にとって、これまでやり放題だった。中国は巨大市場をバーゲニングパワーに、世界有数のトップ企業を誘致し、資本だけでなく技術をも吸い上げてきた。
レーニンが言った「資本家は自分の首を絞めるロープまで売る」との言葉通り、目先だけの利益を追求しがちな資本主義社会は、いとも簡単に中国の強大化に手を貸したのだ。
その典型が日本の新幹線で、中国は技術をマスターすると、自国ブランドの高速鉄道として世界へ輸出攻勢を掛ける。世界市場でJRはひさしを貸して、母屋を取られた格好だ。
だが、改革開放以来、40年目にして、トランプ米大統領が中国の前に立ちはだかろうとしている。
米国や豪州、ニュージーランド、日本はこのほど、相次いで次世代通信規格「5G」に中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)の製品を使用しないと決めた。
また、半導体技術の宝庫である台湾からの抜け道も、米国は封印を図る。中国の半導体産業育成に手を貸すはずだった台湾大手の聯華電子(UMC)が、技術協力を大幅に縮小する。米国が産業スパイの罪で同社と中国側企業を起訴し、同事業への製造装置の輸出も規制したためだ。昨年度、国内消費の9割以上の集積回路を輸入に頼り、その輸入総額は石油輸入総額を上回る中国にすれば、最先端の半導体製造技術は喉から手が出るほど欲しいものだ。
なお、中国AI特区のある貴陽とIT(情報通信)先進国インドのバンガロールがこのほど、AI開発で手を組むことで合意した。技術流出を封印するには、非同盟を国是とするインドを、どう西側に組み込んでいくのかも課題となる。
(編集委員・池永達夫)






