日本の課題、天安門後の失策の轍踏むな
共産主義国家の本質的悪は「嘘(うそ)と暴力」だ。
今の中国に共産主義はないという人は多いが、「嘘と暴力」による強弁・強権統治の手法はしっかり残っている。
新疆ウイグル自治区を見れば、それは歴然だ。中国はウイグル人を強制収容所に入れながら、「職業訓練校」だと強弁し、不都合な人物への白色テロも辞さない。
南シナ海の七つの人工島でも、習近平主席が訪米した2015年、オバマ大統領と会談した際、「軍事化の意図はない」と明言しながら、爆撃機や弾道ミサイルを配備、約束を反故(ほご)にした。
そうした中国に対処するには、十分な国防力と嘘を暴く健全なジャーナリズムが問われてくる。
力の行使に屈せぬ万全な国防力整備は予算的制約があるが、評論家の黄文雄氏は「10兆円規模の特別予算を投入して、先端技術を結集した最新兵器を造るべきだ」と強調する。日本は技術力はあるのだから、国防力に転化すべきだというのだ。
経済活動においてイノベーションは、時に巨大なダイナミズムをもたらす。防衛においても「破壊的イノベーション」が死命を決することがある。ゲームチェンジャー的な兵器の出現で、勝敗が一変するというのは歴史の真実だ。
中国が開発中の量子コンピューターや人工知能(AI)、衛星攻撃兵器(ASAT)、極超音速兵器なども、米中グレートゲームの様相をがらりと変えかねないパワーを持つ。
なお戦争というのは、武器を持って戦場で戦うだけではない。
外交戦や情報戦、歴史戦、サイバー戦争など、さまざまな局地戦がある。これまで日本は中国とのそれらの局地戦を回避してきた経緯がある。黄氏は特に中国の歴史戦に対し、きちんと対応してこなかった外務省の事なかれ主義を批判する。
無論、政治はリアリズムの世界だ。先端技術を西側世界から詐取し、軍事転用を図ってきたとされる中国に対し、民主世界はスクラムを組み対処する必要がある。
その先陣役を務めるトランプ大統領は、時代が送り込んでくれたジョーカーかもしれない。
オバマ前大統領は政権時代末期、中国の「衣の下の鎧(よろい)」に気が付いたものの、手をこまねいたままだった。
年初、シャナハン国防長官代行が初登庁した際、「三つの優先事項がある。それは中国、中国、中国だ」と言った。
評論家の石平氏は、「トランプ氏が大統領選で勝った3年前の秋、私は『トランプでいいじゃないか』という記事を書いた。それが今、『トランプで良かったじゃないか』との確信に変わった」と言う。
一部には米中の対立が過熱しないよう、日本が仲介役を果たすべきだという意見がある。だが、まず日米同盟の維持強化こそが最優先となる。日本は米国に安全保障を頼っている。核を持たない日本が、核を持った中国を牽制(けんせい)する力はない。強固な日米同盟があってこそ、中国へのバーゲニングパワーが機能する。
今、中国は日本に擦り寄ってきている。30年前の天安門事件で四面楚歌(そか)に陥った中国は、日本の融和策を足掛かりに西側の制裁を解いていった。その過ちを繰り返すことがあってはならない。
(編集委員・池永達夫)
=第2部終わり=