対決の行方、本当の勝負は安全保障
「米中新冷戦」の背景や展望を米国側から探った第1部に続き、第2部では中国を軸足に論じていく。(編集委員・池永達夫)
米中新冷戦が長期戦となるか、短期戦となるか、識者によって見方は異なる。
評論家の石平氏は「6年戦争」と読む。トランプ米大統領は、これからの2年間、対中交渉で実利を引き出し、2年後の大統領選で再選を果たせば、2期目の4年間で習近平政権崩壊まで一気に追い込むとみる。「関税マン」を自称するトランプ氏は取りあえずこの2年間、「関税をバーゲニングパワーに、中国の悪弊を一つ一つ潰(つぶ)していく」(石氏)という。悪弊とは、中国進出企業への技術移転強要や共産党組織設置を義務付けることなどだ。
13年前に今日の状況を予言した『米中が激突する日』(PHP研究所刊)の著者、黄文雄氏はさらに過激で、「米中対決は今年中にも決着する」と読む。共産主義を棚上げし、経済発展を共産党政権の求心力とする中国において、「経済という水を抜けば、政権は持たない」と言い切る。
「経済の蛇口を閉められると、投資と輸出、消費で持っている中国経済は途端に苦しくなる。さらに、中国が知的財産窃盗の停止やむなきに至れば、それに基づく外貨稼ぎや兵器開発費の節約もできなくなり、軍拡にもブレーキがかかる」(黄氏)との見立てだ。
一方、研究団体「新外交フォーラム」理事長の野口東秀氏は、「長期戦になる」と読む。
「中国は対米『低調』姿勢に徹し、何とかなだめることに全力を注ぐ」(野口氏)という。中国語で「低調」とは、頭を低くし、おとなしくするとの意味だ。いわば鄧小平氏の韜光養晦(とうこうようかい)路線を強国・米国にだけは継続するというわけだ。
ただ、野口氏は「中国が繰り出す交渉カードは、トランプ氏に花を持たせる小手先の懐柔策でしかなく、合意してもうわべだけ。あくまで米国に伍(ご)していける実力を蓄えるまでの時間稼ぎだ」と語る。
その引き延ばし期限を野口氏は「2030年代まで」とみる。それまで中国は牽制(けんせい)や小手先の妥協案で何とかしのぎ、米国との実力対決となる「熱戦リスク」を回避し続けるとの見解だ。
マイクロ波やレーザーなどを使った対衛星攻撃で、米軍と互角の状態にある人民解放軍は、「2030年代後半までには、宇宙やサイバー分野などの局地戦で米と伍すことができるという自信がみなぎっている」と、野口氏は強調する。
理論的には、中国は現在、3万㌔上空の衛星を地上から破壊でき、早期警戒衛星など全てに照準を合わせることができると指摘されている。
有事に米国の衛星が一気に撃ち落とされれば、米軍は目くらましを食らったも同然で、状況把握だけでなく命令指揮系統も多大な影響を被ることになる。
3人の見立ては異なるが、共通しているのは、米中対決の実相が世界の覇権を賭けた安全保障問題という見識では一致している。背景には、宇宙にしてもサイバーにしても、このままでは米軍優位が揺るぎかねないとの危機感がある。挑戦する新興国と覇権国が、一戦を交えるリスクを説いた「ツキディデスの罠(わな)」に、米中は陥ることになるのかどうか焦点だ。
米中新冷戦の第2ステージは、中国を為替操作国に認定したり、金融問題が土俵になるとの指摘があるが、本当の勝負になるのは安保の土俵だ。米国が一番、重視しているのはそこだからだ。