経済減速リスク、求心力維持へ台湾侵攻も
新外交フォーラム理事長の野口東秀氏は、中国経済を「2019年は厳冬期で、雪の上に霜が降る状態だ」と語る。
米国との貿易摩擦で減速を余儀なくされている中国経済は現在、貿易額が急減し消費も振るわないなど悪材料が目立つ。
増加が続いていた対米輸出も先月は前年割れだ。米国の対中制裁関税引き上げを前にした駆け込み輸出が一巡した模様で、これから反動減の深い谷が待ち受けている。
「住宅の購買意欲も急減し、中国経済はこれからどうなるか分からないから、取りあえず貯金をしておこう」(野口氏)という心理状況が中国では蔓延(まんえん)している。
100万人近くが中国に進出している台湾だが、対米輸出が冷え込む中、「中国の工場を東南アジア諸国連合(ASEAN)に移転する動きに拍車が掛かっている」(台湾民主基金会・顔建發副執行長)という。
進出企業は、そうした海外シフトでリスク回避を行えるが、懸念されるのは中国経済の悪化が北京の政治状況を一変させかねないことだ。
現在の中国で、共産党独裁政権の後ろ盾となっているのは経済成長だ。その経済が下降線をたどるようになると、共産党の求心力は揺らぐ。さらに「共産党内部から習近平氏を引きずり下ろす力が働くようになることから、習近平政権は対外強硬路線を選択するリスクが存在する」と、野口氏は指摘する。
そもそも反腐敗闘争で多くの人を牢獄に追いやった習近平氏に恨みを持つ人は多い。それで「政局の風が変わると、面従腹背してきた人々は、ころっと態度を変えるかもしれない。習氏とすれば求心力を高めるために何をするか分からない」(野口氏)というのだ。
外に敵を作り、内部矛盾を払拭(ふっしょく)させるという古典的手法だが、「戦争への垣根が低い中国では、何が起きてもおかしくない」(評論家の石平氏)。
そのターゲットの俎上(そじょう)に、台湾が上がる可能性がある。
石平氏は「日章旗と青天白日旗が翻った台湾総統府に、中国の五星紅旗が翻れば習氏の政治力は一気に高まる」と言う。台湾統一は建国を果たした毛沢東も香港返還までこぎ着けた鄧小平もできなかったことだからだ。
中国はしばらく、「以商囲政」(商売をもって政治を囲む)路線で中国と台湾との経済関係を強化し、台北の政治を籠絡(ろうらく)させる長期戦略を取ってきた。孫子の兵法にある「戦わずして勝つ」のがベストの勝利だとしたからだ。
だが最近は、「台湾への武力統一を放棄せず」といった年頭の習演説に見られるような武骨な文言が目立つようになっている。
中国とすれば「共産党政権存続が第一」(石平氏)で、そのためには何でもあり得ると心得るべきだろう。
台湾侵攻となれば、米軍が介入してくる前に事を収めるため、まず通信網が遮断され、台湾対岸の福建省などに配備された約1400基の短距離弾道ミサイルや巡航ミサイルで軍指導部や海・空軍基地を一気にたたくことが想定される。
西太平洋シーレーンの要衝の地・台湾を中国が併合することになれば、東アジアの覇権構築に向けた橋頭堡(きょうとうほ)を手に入れたも同然だ。わが国の安全保障は、途端に厳しい状況に追い込まれることになる。
(編集委員・池永達夫)