最大の脅威は中国浸透工作
台湾海峡情勢の行方
元台北駐日経済文化代表処代表・羅 福全氏
台湾に対する中国の圧力により不安定化する台湾海峡情勢。中国はどこに向かい、台湾はこれにどう対応すべきか。台湾の駐日大使に相当する台北駐日経済文化代表処代表を務めた羅福全氏に聞いた。(聞き手=編集委員・早川俊行)
軍事力強化し危機感高めよ
中国の共産党一党独裁体制はいつまで続くか。

ら・ふくぜん氏 1935年、台湾生まれ。早稲田大学で修士号、米ペンシルベニア大学で博士号。国連勤務を経て、2000年から台北駐日経済文化代表処代表、04年から台湾の対日窓口機関、亜東関係協会(現台湾日本関係協会)会長を務めた。16年に旭日重光章受章。現在、台湾安保協会名誉理事長。
中国の1人当たりの所得が8000㌦を超えた。この勢いでいけば、25年後には1万6000㌦になり、人口に占める大卒者の割合も20%程度になる。韓国や台湾もそうだったが、近代化が進み、教育水準が上がり、大卒者の割合が20%程度になると、市民社会が出てくる。
香港のような市民社会が生まれれば、中国も共産党による独裁は成り立たなくなる。つまり、香港が中国化するのではなく、中国が香港化するのだ。近代化によって中国が徐々に民主国家になる。これが中国にとってもアジアにとっても、一番良いシナリオだ。
だが、習近平国家主席は近代化に貢献すべきなのに、毛沢東時代に回帰している。権力を集中させ、ますます独裁を強めている。
独裁は必ず汚職を生む。国民党と共産党の下で100年間も汚職の時代を生きている中国人に、私は同情する。世界で今、貧富の差が最も大きいのは中国だ。共産党の幹部たちは、取り上げた農地にビルを建てて金を儲(もう)けている。何が共産主義だと言いたい。
習政権が台湾武力侵攻に出る可能性は。
中国が武力を用いる可能性に対し、米国が強い姿勢を示すようになった。米議会は台湾旅行法や(台湾との軍事交流促進などを盛り込んだ)国防権限法を通過させた。中国が武力侵攻に出た時に、米国は台湾をバックアップする意思表示だ。
中国は今の軍事力では米国に太刀打ちできないことがよく分かっている。従って、実際には台湾に武力攻撃はできない。
台湾にとって一番危険なのは、中国による浸透工作だ。台湾の親中派グループに中国から資金が入っている。蔡英文政権は中国から資金を受け取った二つのグループを初めて摘発したが、まだまだ不十分だ。中国は浸透工作で台湾を取ろうとしている。
台湾人は中国に対して平和ボケしている。危機感の薄さが、中国の浸透を容易にしている。台湾の国防費は国内総生産(GDP)の1・8%しかない。米国は3~4%に上げろと言っている。軍事力を強化して、中国に対する危機意識を高めないといけない。
民進党は中国に対してはっきりした姿勢を打ち出していない。習氏は現状維持の平和を破壊している。
台湾の独立派は、独立についてどのような展望を持っているのか。
それはタイミングだ。例えるなら、男女2人が同居し、実質的には結婚しているが、婚姻届を出せない状況だ。結婚登録できる日までじっと我慢している。台湾も実質的に独立した主権国家だが、それが認められる日を待っている。
その中でやるべきことは、もう少し国民の台湾意識を高めることだ。それによって中国の浸透を止める。そして国際的には現状維持だ。一番のシナリオは、中国が20年後に民主的な近代国家となり、台湾を尊重するようになることだ。
台湾は過渡期にある。過渡期では中国を刺激しない。だが、中国の一部にはならない。