ネパール、中印との外交バランス重視 エクナト・ダカール氏
元ネパール和平復興相 エクナト・ダカール氏に聞く
ネパールのエクナト・ダカール元和平復興相(43)はこのほど来日し、世界日報のインタビューに応じた。ネパールでは、2015年に成立した新憲法下で初めて行われた選挙の結果、親中派政権が誕生。これについて、ダカール氏は「地理的にインドと中国に挟まれたネパール外交の基本原則は非同盟だ」と強調しつつも、「これまではインドだけに依存していたが、今は中国とインドの間でバランスを取っている」と、中国の影響力が拡大していることを認めた。
(編集委員・早川俊行)
政治の安定、ようやく実現
ネパールはこれまで、「南アジアの盟主」を自任するインドの強い影響下にあったが、その流れが大きく変わったのは新憲法成立後だという。
ダカール氏は「新憲法に不満を抱いたインドが国境付近を約7カ月間封鎖したことで、インドから生活物資が入らなくなり、ネパールの国民生活は大混乱に陥った」と指摘。燃料や薬品も入らず、国民は薪で料理することを強いられ、病院で亡くなる患者も現れたという。
こうした事態を受け、ネパール国内では過度のインド依存を見直すべきとの見方が広がる一方、中国も影響力拡大のチャンスとばかりに手厚い支援を提供。ネパールと中国は貿易拡大に合意するなど、両国の関係は急速に進展していった。
世界各地で拡大する中国の影響力には国際社会から懸念が広がっているが、ダカール氏は「中国との関係は、ネパールの生存のために必要だった。ネパールと同じ立場なら、どの国も同じ行動を取るだろう」と主張した。
ネパールでは08年の共和制移行後、政争が続き、首相が頻繁に交代。不安定な政治状況は、約9000人が死亡した15年の大地震からの復興や経済開発を阻害する大きな要因になっていた。
今回の選挙では、共産党統一マルクス・レーニン主義派(UML)と共産党毛沢東主義派(毛派)が主導する親中派の「左派同盟」が勝利。両党は合流し、新政党「ネパール共産党」を設立することで合意している。
ダカール氏は「政治の安定がネパールの最重要課題だ」と断言。新憲法には少なくとも2年間は政府不信任案を提出できない規定があるほか、左派同盟が明確な過半数を獲得したことを踏まえ、「今後5年間は安定政権になるだろう。新政権は経済開発に専念しようとしている」と、楽観的な見通しを示した。
1996年から2006年まで10年以上続き、多くの犠牲者を出した内戦を引き起こした毛派が政権を担うことについて、ダカール氏は「国民の間には毛派への懸念があるが、毛派も少しずつ民主主義の理念を受け入れる方向に変わりつつある」との見方を示した。
日本との関係については、「友好国の中でも最良の関係の一つだ。ネパールにおける日本の評判は極めて良い」と、親日国家であることを強調。「インドや中国の背後には影響力拡大といった政治的アジェンダがあるが、日本にあるのは経済開発のアジェンダだけであり、中立的な国だ」と高く評価した。