中国の軍事活動への対応

杉山 蕃元統幕議長 杉山 蕃

対艦誘導弾の充実図れ
射程延伸と監視網の統合を

 平昌五輪パラリンピックが無事終了し、この間、北朝鮮の両大会への参加を契機として、南北対話さらに米朝首脳会談の機運が醸成され、これに備えて北朝鮮の金正恩委員長が電撃的に訪中、首脳会談を通じ中朝関係の回復を図る等新しい展開が期待されている。国連安保理決議に基づく各種の経済制裁・封鎖が功を奏し始めたと見える局面であるが、今後2カ月いかなる変化がもたらされるか重要な時機を迎えている。

 この間、中国・ロシアにおいても全人代・大統領選挙という重要な政治イベントがあり、両国とも予想された通りとはいえ、習近平・プーチン両氏が、圧倒的な態勢を見せ付け、それぞれ長期政権への道を確定させた。今回は中国軍の最近の動向を踏まえつつ、今後の軍事的対応についてコメントしたい。

 中国全人代の成果は、これといった対抗勢力の動きもないまま習近平主席を選出、従来2期10年とされていた主席在任期間制限を憲法改正により撤廃し、習近平体制の圧倒性を誇示したことであろう。新体制は当然のことながら従来路線をさらに拡大推進するであろうことから、軍事面においても、海空軍を主体とする軍拡路線は、さらなる推進が予想される。

 特に最近の中国軍の動態は、装備の近代化と歩調を合わせて、周辺国にその威を誇るごとき示威的行動が顕著である。昨年から定期的に行われている艦艇、戦闘機・爆撃機の太平洋進出は、さらに範囲を拡大、台湾を一周し、台湾東洋上から対地誘導弾攻撃可能な態勢を誇示するに至っている。一昨年の日本海への長距離進出、尖閣へのドローン機進出等と相まってますます活動活発化の傾向が顕著である。他方、練度向上の努力も相当進んでいると見るべきである。顕著な例は操縦士練度の問題である。最近の情報では、甘粛省の砂漠地帯に訓練センターを設置し日米韓と同様、戦技向上・教導の特別訓練を開始した状況が報ぜられている。

 このような軍事拡大の本音はどこにあるのだろうか? 「台湾独立阻止」、半世紀後の「米国を凌(しの)ぐ強盛国」といった国民に夢を抱かせる言動の下、軍拡の正当化を主張しているが、その実、圧倒的な軍事力を背景に「戦わずして屈服させる」外交戦を展開し、アジアインフラ投資銀行(AIIB)に見られる周辺国、途上国へのインフラ投資の強要、利払いに窮する対象国に、主要港湾、重要拠点の租借といった方法で、勢力圏、経済圏をつくり上げようとしている。

 このような情勢に対する米国の動きも注目に値する。南シナ海での自由航行作戦により、比・越・台をはじめとする沿岸国に間接支援の行動を示しているほか、中国を主眼とした関税(鉄鋼・アルミ・知的財産)付加による貿易不均衡の是正、台湾旅行法の成立による台湾との各級レベルでの交流を可能とした処置等、従来の関与政策から、拡大阻止戦略に移行した感がある。

 わが国の対応も急務である。現在のペースでいけば10年後には、中国軍は4個の空母打撃群を構成し、宮古水道のみならず、宝島・大隅・対馬・津軽といった国際海峡を経て太平洋に進出、長距離進出に実績ある爆撃機と連携し、洋上からわが国を窺(うかが)う演習等を繰り広げるであろう。このような事態にも、十分の態勢で対応し、事態を発展させない防衛力の整備が必要である。防衛計画大綱、中期防衛力整備計画策定の時期に来ているが、十全の施策で、余裕ある対応が可能なように検討を進めてもらいたい。

 特に空母群対策として一部の有力紙は、空母保有、あるいはヘリ搭載護衛艦の転用使用を記事にしているが、筆者はこれに与(くみ)しない。そもそも空母は遠隔の地に航空力を発揮するのが目的であり、広大な国土あるいは遠隔地に領土を有する国以外は必要性に乏しい。もう一つの利点として、航空力の機動、集中運用が挙げられるが、中国空母「遼寧」を見て分かるように、5万㌧クラスの中型空母で、艦載機数は戦闘機40機程度、とてもペイする装備ではない。むしろ空中給油による長距離機動運用、作戦根拠基地の多数化、多様化を図るべきである。

 そして、わが自衛隊の目指すべき方向は、対艦・対空誘導弾システムの充実にあると考えている。米海軍の誇る空母群もその弱点は、対艦誘導兵器対応力にある。最近の軍事技術の趨勢(すうせい)から、長距離誘導弾能力は向上し、特に大型艦はこれらの攻撃に弱点を有するのは軍事的常識である。わが国の対艦ミサイルシステムは、専守防衛の枠から射程100カイリ程度に自制されてきたが、新しい情勢を踏まえ、わが領土に接近して行動する空母等戦闘艦艇に対し、300海カイリ里を超える遠距離から攻撃可能な態勢を保持することが望ましい。

 このため、陸海空各自衛隊の保有する対艦ミサイル装備の射程延伸を図るとともに、衛星を含むあらゆるセンサーを統合し、わが国周辺海域の常続的警戒監視網の充実を図ることが必要である。これにより、いかに空母をもって外洋に進出し、外周からわが国を牽制(けんせい)しようとも、不測・不正な行動に常に断固として痛撃できる軍事的余裕度を確保していくべきであると考えている。

(すぎやま・しげる)