文革時代に回帰する習主席 楊建利氏
在米中国民主化活動家 楊建利氏に聞く
民主国家日本は恐れず対峙を
米国を拠点に活動する中国民主化支援組織「公民力量」の創設者である楊建利氏(54)はこのほど、世界日報のインタビューに応じた。楊氏は社会統制を強める習近平中国国家主席について「文化大革命時代に回帰している」と批判する一方、企業家や中間層を遠ざける経済政策によって共産党の支配構造が崩れつつあると指摘。楊氏が今月、東京都内で在外中国民主化活動家らを集めて開いた会議では、中国の圧力で日本人の通訳や学者が参加を取りやめたことを明らかにし、日本は「アジアで最も強力な民主主義国家」であり、中国を恐れず対峙(たいじ)すべきだと主張した。一問一答は次の通り。(聞き手=編集委員・早川俊行)
現在の中国の人権状況は。

楊建利氏 1963年中国山東省生まれ。米カリフォルニア大学バークリー校、ハーバード大学で博士号取得。天安門事件時に帰国して民主化運動を支援、中国当局の武力弾圧を逃れる。2002年に労働運動の視察で帰国した際に逮捕され、5年間投獄される。07年に釈放され、米国で中国民主化支援組織「公民力量」を設立。現在、ハーバード大学研究員。
極めて悪い。習近平国家主席が権力を握って以来、中国の人権状況は後退している。この5年間の市民社会に対する弾圧は、過去20年間で見たことのないほどだ。習氏は第19回共産党大会後も、市民社会への締め付けを強化し続けている。予見できる将来、表立って政治的に反対することはほぼ不可能だ。
習氏が権力を握る以前に比べ、言論の自由の余地は狭まっている。ネット上で冗談を書き込んだだけでも、深刻な問題になり得るのが今の中国だ。習氏は文化大革命時代に回帰していると、多くの人は見ている。
中国国民の間で政府に対する不満が高まっていると聞くが、民主化運動に発展する可能性は。
政治的に反対することはほぼ不可能だが、この状況は反体制派が環境保護やエイズ、食の安全、教育、住宅といった問題に取り組みながら、社会に深く入り込んでいく機会をもたらしている。中国政府も社会問題に基づく運動の余地を完全に押し潰(つぶ)すことはできない。政治改革は要求せず、社会運動を通じ現場で民衆と緊密に協力していく。彼らが表に戻って来た時、より良い勢力となる。
習氏は国民を洗脳し、自分の下に動員させようとしているが、今の国民は文化大革命時とは違うことを忘れている。(ネット検閲システムの)「グレート・ファイアウォール」があっても、人々はこれを迂回(うかい)して欲しい情報を手に入れる。人権や民主主義の概念を理解する人は増えている。
権力基盤を固めた習氏にも弱点があるということか。
 習氏は自らを巨大な独裁者として確立しようとしている。集団的指導体制を放棄し、すべてのことに責任を負う立場となった。うまくいっている時はいいが、経済
 
危機のような事態が起きれば、他の指導者たちから批難されることになる。指導部内で亀裂が生じる可能性が拡大したと思う。
また習氏は民間の富を没収し、企業を国有化しようとするなど経済政策で左旋回しており、企業家を遠ざけている。経済が停滞すれば、中間層は苦境に陥り、政府に背を向けるだろう。そうなれば中間層やエリート層は徐々に民主化運動の一部になっていく。
彼らは過去30年間、中国共産党の支配構造の一部だった。共産党は彼らを支配構造に取り込むことで、今日まで権力を維持してきた。だが、この権力構造は今、溶解し始めている。
共産主義の悲劇続く中国
トランプ米政権の対中政策をどう見る。
まだはっきりしない。トランプ氏は大統領選で中国を主に貿易不均衡で批判し、貿易戦争の意向を示した。だが、大統領に就任すると、北朝鮮の核問題が喫緊の脅威となった。この問題で中国の協力を得るため、貿易で中国と対決するプランを先送りせざるを得なくなった。
だが、かなりの時間が経過したが、北朝鮮問題が解決する兆しは見えない。中国がどこまで協力するのか、懐疑的な見方が広がりつつある。北朝鮮問題が解決するまで、米中関係は不透明なままだろう。
トランプ氏にとって人権問題は訪中時の優先課題ではなかった。
私が知る限り、トランプ氏は公には言及しなかったが、内々では人権問題を取り上げたようだ。だが、人権問題がトランプ氏の優先課題ではないことは間違いない。就任以来、人権問題に対するスタンスを公に語ったこともなければ、人権派大統領になろうとも思っていない。人権問題を取り上げるかどうかはケース・バイ・ケースだ。
中国が強大化するにつれ、米国内への影響力も拡大している。
極めて憂慮すべき状況だ。中国は過去20年間、想像もできないほどのお金をばらまいて米国に浸透してきた。これが功を奏し、中国は学術、ビジネス、政治など米国のほぼすべての分野でものすごい影響力を持つようになった。
中国の影響力は米国の民主主義にとっていかに深刻であり、安全と平和をも脅かすことを理解する必要がある。だが、これを警戒している人はまだごくわずかだ。
「公民力量」の主宰で今月14~17日、在外中国民主化活動家らが集まる会議「第12回諸民族青年リーダー研修会」が東京都内で開かれた。日本で開催した理由は。
アジアで最も強力な民主主義国家である日本は、極めて重要な国だ。だが、日本社会には中国に対する恐れが存在する。これを打破したいと思ったことが、日本での開催を決めた理由の一つだ。
会議は中国語、英語、日本語の3カ国語で行われるため、通訳を雇った。ところが、3人の通訳が次々に逃げ出してしまった。代わりの通訳を見つけることができたが、この出来事を通じ、中国の圧力が日本でもいかに機能しているかを理解させられた。パネルディスカッションの司会を突然断ってきた日本人の学者もいた。
学者も政治家も通訳も、なぜこれほど多くの日本人が中国を恐れるのか、私には理解できない。日本は民主主義国家であり、もっと自信を持つべきだ。日本には多くの問題で中国に立ち向かえるだけの力がある。
多くの日本人は歴史問題で中国に罪悪感を抱いている。だが、中国共産党に罪悪感を抱く必要はない。日本は中国共産党に悪いことは何もしていないのに、なぜそのように扱うのか全く理解できない。
今年は1917年のロシア革命から100年に当たる。
この100年の歴史から学ぶべきことはたくさんある。ロシアで起きた革命は、中国を含め多くの国々にとって悲劇の始まりだった。中国共産党が支配する約70年間で、6000万人以上が犠牲になった。とてつもない悲劇だ。共産主義は第2次世界大戦時のヒトラーよりもはるかに多くの命を奪った。
私が全世界に警告したいのは、この悲劇は中国ではまだ終わっていないということだ。現在進行形だ。中国は依然、共産党の支配下にあり、習氏の下で伝統的なマルクス主義に回帰している。世界人口の5分の1を占める中国では、悲劇がまだ続いているのだ。










