中国、国外ウイグル人へ強権

迫害下の新疆ウイグル

日本ウイグル連盟会長 トゥール・ムハメット博士に聞く

 中国による新疆ウイグル自治区のウイグル人への弾圧と中国化政策が進められている。宗教の自由や民族のアイデンティティーを奪われ、ウイグル人の人々が国内外で抗議の声を上げている中、昨年秋から、中国が海外のウイグル人を中国本土に呼び戻す動きが出てきている。中国の意図について、日本ウイグル連盟会長のトゥール・ムハメット博士に聞いた。
(聞き手=石井孝秀)

情報工作や圧力を強化/日本はスパイ防止法制定を
自治区とは名ばかり/ウイグル語は全面禁止

7月初めにエジプトで、ウイグル人留学生が大量に拘束されるということが起きた。もともと中国への一時帰国は海外すべてのウイグル人に通達が出されており、日本に留学しているウイグル人にも行方不明者が出ていると聞く。

トゥール・ムハメット博士

 私が把握している事例は何件かあるが、本人たちの身の安全のために詳しいことは公表できない。一時帰国に関する呼び掛けは学生だけでなく、日本企業などで働いているウイグル人も対象だ。

 詳しくは分からないが、ウイグル自治区の党委員会から海外にいるウイグル人を呼び戻して、審査を行うようにという内部通達が出ているようだ。事情聴取をして思想的に問題がなければ帰し、あれば「解決」するまで拘束し続けるという方針だが、基本的には二度と中国から出られないと考えた方がいい。

北朝鮮の拉致事件のように、ウイグル人が中国側に強制的に拘束されるというケースもあるのか?

 強制的な拉致までは行われていない。「すぐに帰れる」とだまして帰国させることで、表向きは家庭の事情で本国に帰ったというかたちを取らせる。周囲にもそのように告げておくように口止めされる。

 最近では、日本で修士課程に進んでいる大学院生から相談があった。親を通して、現地の政府から帰国するように言われたが、どうすればいいかと彼に尋ねられたので、「刑務所に入りたいなら帰国していいが、そうでないなら絶対に帰るな」と伝えた。

これまで中国国内から出国するときには、ウイグル人への思想チェックが行われていたのか?

 これまで多くの場合、中国の役人に金を渡してパスポートを発行してもらっていた。そのためか、誰がどこの国に行っているか、しっかりと統計を出していなかったようだ。これまでのチェックが甘かったので、大慌てで取り締まりを強化しているのだろう。

現在、ウイグル連盟ではこの問題に関して、どのような対応を検討しているのか?

 一つは帰国に応じないよう呼び掛けること。もう一つはこの迫害を告発するために行方不明者の家族から詳しい報告書を提出してもらい、海外で記者会見をやることだ。

 だが、表に出すことをためらう人も多い。世の中に訴えれば、刑務所の家族がもっとひどい目に遭うのではないかと、みんな黙ってしまう。

 私はそのように心配することには反対している。証言に協力して、国際メディアに取り上げられた方が家族を助けることができる。言われたままに帰国してしまうのも、恐怖心を利用されているからだ。

実際のところ、活動をしていて、中国側から圧力を感じることはあるか?

 中国の諜報機関が人を送り込んで、絶えず私の周辺をチェックしている。

 中国は人海戦術による情報収集や内部分裂などの情報工作が巧みだ。買収された日本人を使うこともあるし、東京のモスクに毎週礼拝に来る人をリストアップして報告するウイグル人のスパイもいるようだ。

 日本はスパイが入りやすいし、監視もしやすい。日本が早くスパイ防止法を作ってくれれば、われわれも安心して日本で暮らすことができる。外国からの情報収集をどうするかは日本の安全保障上でも大きな問題だ。

中国共産党大会が18日から行われることで、圧力が厳しくなることも考えられる。警戒していることはあるか。

 われわれの活動への妨害やさまざまな破壊活動は強まると思う。うわさや誤情報を流し、海外から孤立させるなどの手口もあり得るだろう。

 党大会が終われば、ウイグルやチベットへの締め付けが強まり、もっと激しい迫害や弾圧が行われるかもしれない。

現在のウイグルでは、どのような迫害が行われているのか。

 ウイグル人の言葉は全面禁止にされ、幼稚園をはじめとするすべての学校や政府機関ではもう使うことができない。

 民族の言葉を使えば、民族意識のアイデンティティーが強いと言われ、場合によっては免職処分や逮捕となる。ウイグル人の多くが中国語の読み書きができないため、ウイグル語のラジオや新聞は残っているが、それは中国共産党にとって役立つからだ。

 国内では、もはやイスラム教の礼拝もできない状況で、共産党が公認するモスクに集まることはあるが宗教活動はできないので、ただのパフォーマンスにすぎない。最近はある村の町内放送で、家にある聖典のクルアーンや礼拝用のじゅうたんなど宗教関連の道具をすべて差し出すように言われたそうだ。

政府の圧力が強まる背景には何があると考えられるか。

 私は共産党政府が自治区への統治に自信を失っているのだと思っている。国民からの支持を失い、ここで国内のコントロールを強めなければ、何かが起きるかもしれないと疑心暗鬼に陥っている。自分たちの政策に問題があることを認めず、ウイグル人の反発をイスラム教の信仰のせいにしている。

 弾圧を強めれば反発もさらに強まり、またさらに反発が強まるという悪循環が生じている。

 人権活動家。農学博士。新疆ウイグル自治区ボルタラ市出身。中国農業大学卒業。新疆農業大学講師。

 1994年に来日、九州大学留学(99年3月農学博士取得)。97年より留学中の日本で、ウイグル人の人権問題を訴える活動を開始。2015年10月、日本ウイグル連盟会長。