台湾は中国の進出阻止の砦

日米同盟と台湾 海洋安全保障の展望(5)

元統合幕僚学校副校長・海将補 川村純彦氏に聞く

「日台関係基本法」制定に期待

中国が南シナ海で強行している人工島の軍事基地化の次の狙いは何か。

川村純彦氏

 台湾だろう。台湾は中国沿海部の中央に位置し、そして、第1列島線の中間にある。中国にとって海洋戦略の要衝であると同時に、戦略上の弱点にもなっている。したがって、台湾を統一できれば「A2/AD」戦略の前方拠点を得ることになる。

中国は2005年に「反国家分裂法」を制定し、台湾の武力侵攻を放棄していないのでは。

 中国が台湾を武力攻撃したら、米国が救援のため出てくる。

弱腰外交と批判されているオバマ政権でも出てくるだろうか。

 いざとなったら軍事支援のため出てくる。たとえ中国が台湾を強襲上陸したとしても、補給が続かないから作戦は長続きしないだろう。米国の潜水艦が東シナ海に入ってきて補給船は全部撃沈され、弾薬、燃料、食料の補給ができなくなる。台湾が米軍の来援までしっかり守ったら中国は引き上げざるを得ない。

中国は、台湾の対岸に多数の対地ミサイルを配備しているが。

 現在、約1400基のミサイルを配備していると言われる。例えばの話だが、全部のミサイルを撃ち込んだ場合、ミサイル1発の弾頭に装着されている炸薬量は0・5㌧だから、ミサイル1400発の全炸薬量は700㌧だ。

 ベトナム戦争において、米軍は北ベトナムに対し2週間で1㌧近い爆弾を2万数千発落としたことがある。北ベトナムはそれを耐えて戦い抜いた。ミサイルの爆発威力は爆弾に比べると落ちる。爆弾は破片で広範囲を破壊するが、ミサイルは爆薬の破壊力だけで、本来は飛行機や船を破壊するものだ。したがって、1400発のミサイルなら台湾国民は十分耐え得ると思っている。

中国にとって要衝である台湾は日米両国にとっても中国の海洋戦略をくじく反転攻勢の砦になると思うが。

蔡英文氏

台湾総統就任式で手を振る蔡英文氏=5月20日、台北(EPA=時事)

 中国の進出を第1列島線で守るという戦略は、台湾との協力を抜きにしては成り立たない。中国の外洋進出を日本本土、沖縄列島線、台湾、フィリピン、ベトナムのラインで阻止しなければならない。そういう意味では、日本と台湾は運命共同体と言うべきだ。そのためには、台湾との緊密な関係構築が不可欠だ。

 しかし、外交的には日台関係は断交状態にあるため、今のところ正式に話ができるチャンネルすらない。しかも、馬英九前総統が、中国と「一つの中国」の認識で合意し、経済的に中国依存を強めて、日米との緊密な関係を壊してしまった。

 私は最近、台湾民進党のナンバー2をはじめトップクラスの人たちとの会議で台湾に行ってきたが、蔡英文氏が新総統になって、日米との連携を強めたいという機運が台湾側に急速に増大しつつあるのを強く感じた。

日台関係を進展させるカギは何か。

 日台の二国関係だけでというわけにはいかない。「日米同盟と台湾」という関係を忘れてはならない。それでないとだめだ。米国には「台湾関係法」があり、武器供与などによって台湾の安全保障にコミットしているが、日本はその点ハンディキャップがある。したがって、まずは日米同盟と台湾という形で、南・東シナ海についての情報交換から交流を進めればいいと思う。

 そして、私が注目しているのは、自民党の岸信夫衆議院議員を中心とする「日本・台湾経済文化交流を促進する若手議員の会」が、「日台関係基本法」の立案、立法化を検討していることである。安倍首相の弟である岸氏は、総統選前に蔡英文氏が訪日した際、安倍首相の地元、山口を案内している。蔡総統と安倍首相は相互に信頼関係を深めており、安倍首相が日米同盟プラス台湾という形で関係強化を進められることを期待したい。

(聞き手=政治部・小松勝彦)

(終わり)