中国、米軍排除で聖域化狙う
日米同盟と台湾 海洋安全保障の展望(2)
元統合幕僚学校副校長・海将補 川村純彦氏に聞く
人工島の基地機能維持に疑問も
中国は、冷戦の教訓から核抑止力を持つことに血眼になっている。
信頼できる核の抑止力を確保することは、大国にとって必須の条件だ。中国が今、南シナ海でやっているのはそれが目的だ。経済的な目的、例えば資源開発や漁業資源であれば、利益の折半とか、共同開発という形で妥協できるはずだ。だが、一切妥協がなく、他国の関与を一切排除するというかたくなな姿勢の背後にあるのは、軍事的な目的しか考えられない。
中国は国家目標として「中華民族の偉大な復興」を掲げているが、具体的には何を目指していると考えるか。
中国の国家目標は中国共産党の存続だ。それが中国共産党の最大の命題だ。政治は国民のためのものではなく共産党のためのもので、人民解放軍も国家の軍隊ではなく、共産党の軍隊である。そして、共産党の政権を維持し、まずアジアで覇権を取るために、核戦力の確保を目指しているのだ。
習近平主席の掲げた「中華民族の偉大な復興」のためには、米国と肩を並べる超大国になる必要がある。そのために「海上強国」をつくるということ、すなわち海軍重視ということだ。それと「国家の統一」、つまり「台湾の併合」だ。
歴史的には、中国は大陸国家だったが、海洋大国を目指すようになったのはなぜか。
中国が国民をまとめて動かすためには経済発展が必要だ。領域も拡大しなければならない。しかし、現実的には、陸地はロシアやインドとの国境が確定しているから無理はできない。押し出していける場所は海にしかない。
ところが、中国にとって、外洋への出口は、日本本土、沖縄列島、台湾、フィリピン、インドネシアの列島線上の狭い水道しかなく、出口を容易に塞(ふさ)がれる恐れがあるため、非常に不利な地勢だ。
不利な地政学上の立場でどのような海洋戦略を取っているのか。
中国が米国と対抗し得る海上強国となるためには、強力な米空母機動部隊を中国大陸に近づけないことと確実な対米核抑止力を獲得することだ。核抑止力については、潜水艦の核ミサイルが唯一の頼みだが、現在中国の「晋」級原子力潜水艦が搭載する核ミサイルは、南・東シナ海から米国本土には届かないので、太平洋に出ないといけない。ところが、中国の潜水艦は基地を出た途端に米国と日本に捕捉されてしまう。
一方、米海軍の接近を阻止するため、中国は「接近阻止・海域拒否(A2/AD)」戦略を策定した。これは日本本土、小笠原諸島、サイパン、グアムを結ぶ線(第2列島線)を超えて米国本土に接近するため対艦弾道ミサイルなどの新兵器を導入し、さらに、九州からベトナムまで連なる列島線(第1列島線)の中国側の海域から米国や日本の潜水艦、哨戒機などを追い出して聖域化するものだ。中国にとって核抑止力は最後の切り札だから、南シナ海の軍事基地化のためには妥協はない。
ただ、補給という観点からすると南シナ海の軍事基地は張子の虎だと言えるのでは。
全くその通りだ。補給が確保できなければ長期間戦えない。
それに飛行機やミサイルを配備するというが、私はその行方がどうなるかを見守っている。人工島だから潮風が吹く。飛行機のエンジンや機体は塩害に弱くすぐさびるから洗い落とさないといけない。昔のレシプロ機なら良いが、今の飛行機はタービンエンジンだ。空気の圧縮機には何千枚という小さなブレードが付いていて、高速、高温で回転するので、少しでもさび付いたり、厚みに変化があるといっぺんに壊れてしまう。塩が付着したら大変なことになる。そのため、海上自衛隊では飛行後に毎回、エンジンと機体を洗浄している。そうしないと安全が保障できない。人工島では、地上に飛行機を置いておくだけで塩害がひどいし、それに水も出ない。大量の水を確保しなければならないから、完全な洗浄ができるか疑問だ。どれだけ基地機能を維持できるか見ものだ。
(聞き手=政治部・小松勝彦)







