海自、対潜能力で中国圧倒
日米同盟と台湾 海洋安全保障の展望(4)
元統合幕僚学校副校長・海将補 川村純彦氏に聞く
ミサイル防衛態勢整備は急務
仮定の話だが、日中両国が戦えば勝敗はどうなるだろうか。
海軍同士の戦いならば日本が勝つ。中国は徹底的に負ける。
中国は空母「遼寧」を持っているが、航空母艦は潜水艦にはかなわない。中国が投入できる兵力は潜水艦しかないが、その潜水艦も片っ端から撃沈される。対潜戦のプロに言わせれば、中国の潜水艦は銅鑼(どら)や太鼓を叩(たた)いて走っているようなものだという。仮に太平洋に出てきても海自の対潜部隊にことごとくやられて帰還できない。
2004年に、沖縄の石垣島周辺で中国の「漢」級原子力潜水艦が領海侵犯した。原子力潜水艦だから潜航したまま頭を出さないが、それを海上自衛隊の護衛艦と哨戒機が55時間にわたって上海沖まで追跡した。それぐらいの能力を持っている。
海上自衛隊の「そうりゅう」型潜水艦の高性能も特筆すべきものだ。
「そうりゅう」型潜水艦は非常に静かだ。そして、潜航できる時間も通常動力艦としては異例の長さで、作戦行動範囲は世界トップクラスである。一方、原子力潜水艦は蒸気タービンによる発電で動いており、タービンの騒音が常に発生している。この「そうりゅう」型を毎年着々と建造・就役させ、すでに7隻が配備されていて、今後、潜水艦戦力を16隻から22隻に増やす計画だ。この潜水艦群が強力な海の忍者軍団の主力として活躍するのは間違いない。
日本の対潜哨戒機部隊の能力はどうか。
対潜水艦戦では対潜哨戒機の能力が決定的な意味を持っている。海上自衛隊の固定翼哨戒機P-3Cは一機で広大な海域を捜索し潜水艦に対処できる。日本はこれを約80機保有している。米国は約200機持っている。最近、導入が始まったP-3Cの後継機の国産新型哨戒機P-1は、4発のジェットエンジンで、飛行速度、航続距離の性能が上がり、性能的には米国のP-3Cの後継機P-8(ポセイドン)に負けない。
これに対し、中国はゼロに等しい。輸送機を改造したY-8Xを4機保有しているが、搭載している主要捜索兵器はレーダーで、ソノブイは搭載していない。従って、相手の潜水艦が浮上したときにしか探知できないので、原子力潜水艦に対しては何の役にも立たない。
海底に設置して潜水艦を探知する音響監視システムも日米が運用している。
これは大変な機密事項で、システムの存在は公然の秘密であるが、一切情報は出てこない。海底の施設は陸上と繋(つな)がっており、得られた情報は現場の艦艇や対潜哨戒機とデータリンクで伝えられるので、対潜捜索の効率が大きく向上する。そういうシステムが完成しており、日米が共同して運用している。
日本の弱点は何か。
ミサイル防衛においては、対空ミサイルの数が全然足りない。これまで北朝鮮のミサイルに対処するための体制を整備してきた。海上自衛隊にイージス艦は今6隻あり、これを8隻にする計画だが、1隻当たり対空ミサイルを100発も搭載していない。撃ち尽くしたら、また港に戻って補給しなければいけない。ところが、中国は日本に向けたミサイルを千数百発持っていて、多数のミサイルを一斉に発射する飽和攻撃を仕掛けてきたらほとんど対処できない。
地上の航空機などを守るシェルターも必要だが、日本は全然整備していない。重要な施設の機能を分散させたり、代替機能の整備などによって、こういったミサイル攻撃に対する抗堪性(こうたんせい)を高める必要がある。総合的なミサイル防衛システムの整備を急がなければならない。