台湾次期総統、対中傾斜是正へ戦略再構築を


 台湾の総統選挙で台湾独立を志向する最大野党・民主進歩党の蔡英文主席が、中国との融和路線を唱える与党・国民党の朱立倫主席を大差で破って勝利した。

 女性総統の誕生は台湾史上初めてだ。蔡主席は4年前に敗れた雪辱を果たした。

 「現状維持」訴えた蔡氏

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民主進歩党の蔡英文主席

 選挙の争点となったのは「巨大な中国とどう向き合うか」だった。国民党の馬英九政権が2期にわたり、中国との融和路線を進めてきたが、蔡氏は中台関係の「現状維持」を訴え、馬政権路線の継続を掲げる朱氏を批判してきた。

 蔡氏の勝利は、朱氏が総統になった場合には台湾経済の対中依存度が高まり、台湾が中国に「のみ込まれる」との有権者の不安の大きさを示すものと言えよう。

 その背景にあるのは「台湾人意識」の向上である。台湾には多数の中国人観光客が訪れているが、それとともに台湾の人々の間で、自らを中国人とは別の「台湾人」と考える傾向が強まった。そのことが対中傾斜への歯止め役としての民進党の人気を押し上げたのだろう。

 さらに経済格差の広がりが考えられる。富の配分が富裕層に偏り、国民党への批判が高まった。かくして民進党は14年末の統一地方選大勝の余勢を駆って選挙戦を有利に展開することができた。

 蔡氏の勝因として考えられるのは、巧みなバランス感覚だ。中国の習近平国家主席は昨年11月、馬総統と1949年の分断後初の中台首脳会談を行った。そこで「一つの中国」の原則を中台間で確認したとされる「92年コンセンサス」を基に平和的な関係を築く考えで一致した。しかし蔡氏はコンセンサスへの態度を明確にしておらず、中国の出方を見守るという慎重な姿勢を取った。

 中国の対台湾政策の欠点は「一つの中国」の原則を振り回すあまり、高まる台湾人意識への認識が欠落していることだと言えよう。

 中台分断から67年、台湾で生まれ育った世代が増え、「台湾のことはわれわれで決める」という台湾人意識は若い世代ほど高い。そこで憂慮されるのは、大陸の共産党政権が台湾の自主性の否定に傾くことだ。

 民進党は台湾独立を党綱領に掲げ、2000~08年に政権の座に就いている。一方、国民党は08年に政権に復帰すると、中国との和解を進め、23の貿易協定を結んだ。

 台湾の経済界には利益追求のために両岸関係の安定と発展を望む声は強い。蔡政権は過度の対中傾斜を避けつつ、中台経済関係の発展に向けた微妙な舵(かじ)取りを求められよう。

 日米との連携を強化せよ

 中国は現在、南シナ海で岩礁を埋め立てた人工島に滑走路を建設し、軍事拠点化に努めている。中国軍幹部は「軍事防衛上の必要性を満たすため」と、その正当性を主張している。

 台湾は自由と人権を重視し、日本や米国と価値観を共有する。日米両国はシーレーン(海上交通路)の安全確保の観点からも、台湾との連携を強化していかねばならない。

(1月18日付社説)