台湾に吹いた蔡英文旋風、中・米とも織り込み済み

台湾に吹いた蔡英文旋風(上)

平和担保の覚悟問われる日本

 台湾のトップを決める総統選は、民主進歩党の蔡英文主席が国民党の朱立倫主席の倍近い票を獲得し圧勝。立法院(国会、定数113)選でも、民進党が現有40議席から68議席に躍進し、悲願だった初の単独過半数を確保した。緑をシンボルカラーとする蔡英文旋風が吹いた結果だ。この旋風が台湾に蘇生の力を与えてくれることになるのか。また、大陸から吹き下ろす寒風に負けてしまうことはないのか、まだ選挙の余熱で熱い台北からリポートする。(台北・池永達夫、写真も)

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雨の中、10万人の支持者を前に最後の演説をする民進党の蔡英文主席=台北市

 ダブル選当日の16日、台北は前日の雨から一転し、青空がのぞいた。外は気温19度、春の陽気に包まれた。蔡氏は民進党地盤の南部だけでなく、国民党の拠点である北部や大票田の中部にも、足しげく通った。さらに台湾の安全保障にとって最大の後ろ盾となる米国にも足を延ばし、日本も訪問した。その労をねぎらうような天候だった。

 米国務省は同日、カービー報道官が「蔡氏の勝利とともに、平和的な権力移行が行われる強固な民主主義を体現した台湾の人々を祝う」と祝福した。

 一方、中国政府のスポークスマンは「台湾を独立させようとするあらゆる活動に断固反対する」と92年コンセンサスを認めない蔡氏を牽制(けんせい)した。92年コンセンサスは、「一つの中国」を認めるものの「中国」が中華人民共和国を指すか、中華民国を指すかは「各自表述(中台がそれぞれに解釈する)」という曖昧さを残しているものだ。

 実は米中とも、蔡氏の総統就任は織り込み済みだった。

 オバマ政権は先月下旬、台湾に対し、総額18億3000万㌦(約2200億円)の武器売却を決めた。退役フリゲート艦2隻や水陸両用車、小型の地対空ミサイルなどを供与する。「台湾独立」志向の強い蔡氏当選後には、中台関係の悪化も予想される。台湾海峡に暗雲が立ち込める中で決定すれば、地域の緊張が一気に高まると懸念し、駆け込み供与を決定したのだ。

 中国の習近平国家主席は昨年11月、訪問先のシンガポールで馬英九総統と初の首脳会談を開催した。政治大学国際関係研究センターの蔡増家研究員は、「中台トップ会談は、92年コンセンサスを確認し、両岸関係の制度化を図ったもの」との認識を示し「民進党に両岸関係を逆転させないための中国側の布石だった」と分析する。

 中国は、これまで台湾に対し「以商囲政」路線を敷いてきた。台湾との商売を増やして外堀を埋め、本丸の政治を落として中台統一を果たすという戦略だ。馬政権はまんまとその疑似餌に引っ掛かったが今回、現状維持を望む台湾国民からレッドカードを突き付けられた格好だ。

中国各紙は、選挙結果を新華社など配信記事を使って小さく伝えるだけだった。その小ささが、逆に中南海を襲った衝撃度の大きさを示唆している。いずれにしても中国は台湾に対し、従来の飴玉(あめだま)だけでなく、鞭(むち)をも振るうことになる。我が国としては、アジア回帰を言う米国を引き寄せながら、台湾と連携してアジアの平和を構築する覚悟が問われる。