習近平氏の「台湾併合」野望懸念
台湾に吹いた蔡英文旋風(中)
東アジアの自由と安保を左右
中台統一は中国の悲願だ。福建省で17年間、勤務した経験があり台湾専門家を自負する習近平国家主席にとっても、台湾問題は自らの政治生命を決定しかねない重要事項だ。少なくとも台湾併合への道筋をつけることができれば、習氏の3期連続も不可能ではない。かつて日章旗が翻った総統府は、第2次大戦後、「中原の逐鹿(ちくろく)」(政権獲得競争)で共産党に敗れた国民党の青天白日旗が翻った。その総統府に中華人民共和国の五星紅旗が掲げられれば、手ごわい長老もバリバリの党内保守派も誰も文句は言えない。毛沢東が成し遂げられず、鄧小平もできなかった台湾併合を、習氏が成就したことになるからだ。
そもそも総書記には任期規定がない。国家主席こそ2期までとされているが、総書記にそうした制約はない。実権を握っているのは総書記なのだから、儀礼上の国家主席は誰かに譲っても、総書記のポストさえ維持できれば、中南海の政治は習近平氏の独断場となる。
蔡英文次期政権にとって最大の課題は、そうした中国の野心を押さえつけて、中台関係を安定させながら現状維持を図ることにある。台湾の85%の人々が現状維持を求めている。
政治の役割は、「安全と自由」を担保し「繁栄」への道筋をつけることにある。馬英九政権は「繁栄」を求めて対中融和路線へと舵(かじ)を切った。だが、司法の独立も言論の自由も無い強権統治の中国の実態を見て、台湾の多くの人は自らの手を縛るような馬路線に不安を抱くようになった。無論、経済的繁栄が画餅に帰したことへの不満もあるが、政治的にはそういうことだ。
蔡氏は投票結果が明らかになった16日夜の記者会見で、今後の中台関係について「現行体制における交流の成果や民意を基礎とし、平和と安定の維持に力を注ぐ」とした上で「両岸(中台)双方に最大限の努力をする責任がある」述べた。蔡氏とすれば、台湾がある程度の譲歩をするのはやぶさかではないものの、同時に中国側にも同様の譲歩を求めたのだ。
また蔡氏は、台湾出身のアイドルが韓国のテレビ番組で台湾の国旗・青天白日旗を振ったことから、中国大陸で「台湾独立支持派」などと誹謗(ひぼう)中傷を受け、謝罪に追い込まれた騒ぎに触れ、「この事件は、この国を団結させ、強大にすることが、次期総統の最も重要な責任だと気付かせてくれた」と述べた。
台湾で影響力のある僧侶・星雲氏は国民党支持者だ。その星雲氏をして「蔡氏は国を救う媽祖」だと言わしめた次期総統の肩にかかる責務は大きなものがある。
だが、それは台湾だけの責務ではない。東アジアの安全保障と自由、繁栄がかかっている課題でもある。今回、緑をシンボルカラーとする民進党旋風が台湾を席巻した。その台湾に武力を後ろ盾に五星紅旗の赤い旋風が吹き荒れるようだと、東アジア全体が存亡の淵(ふち)に立たされることになる。
(池永達夫、写真も)