【社説】ミャンマー軍政1年 正常化ロードマップの作成を


ミャンマー東部カレン州で、国軍のクーデターに抗議する市民

 ミャンマー国軍がクーデターで実権を掌握してから1日で丸1年が経過した。この日、軍政は非常事態宣言を半年間延長した。だが、1年間で事態を収束できなかった軍政が、半年間の延長で収束させられる趨勢(すうせい)にはない。何より国民の反軍政感情は根強いものがある。

国民の抵抗運動続く

 ミャンマーの軍政は、1962年のネウィン将軍によるクーデターにさかのぼる。ミャンマー国民は半世紀以上もの間、ミリタリーパワーの圧政下で息を潜めて暮らしてきた。2011年の形式的な民政移管後、15年の総選挙でアウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝し、歴史的な政権交代を果たした。軍政から解き放たれ自由な空気を堪能した国民は、今さら昔の軍政に戻りたくないというのが実感だろう。

 だから治安部隊が銃で威圧しても、軍政への抵抗運動がやむことはない。手製の地雷を手にジャングルに逃げ込むサラリーマンや青年が出ているし、「沈黙のストライキ」と呼ばれる公務員などの不服従運動も顕著だ。

 経済も新型コロナウイルス禍だけでなく、欧米諸国の制裁による影響があって落ち込みがはなはだしい。ミャンマー経済の柱である原油・天然ガス事業から仏エネルギー大手のトタルエナジーズや米シェブロン、豪ウッドサイド・ペトロリアムが相次ぎ撤退を決めた。

 世界銀行はこのほど、ミャンマーの21年度(20年10月~21年9月)の実質国内総生産(GDP)の成長率をマイナス18%と推計するとともに、22年度の経済成長率が1%になるとの予測を発表した。

 一方でかつて東南アジア諸国連合(ASEAN)最後のフロンティアとしてミャンマーと共に期待されたベトナムの経済成長率は、21年が2・6%で、22年は5・5%と見込まれている。豊かな資源と潜在力に恵まれているミャンマーだが、政治的リスクとインフラ未整備が二重苦となって大きくベトナムに水をあけられてしまった格好だ。

 軍政は来年8月までに総選挙を実施する意向だ。しかし国民に人気のあるスーチー氏を司法を通じて政治の舞台から締め出し、選挙後も国軍主導の政権維持を図ろうとしている。選挙をするのであれば公正なものでなければ、国民も国際社会も納得しない。

 強権統治の国軍支配では、いずれ行き詰まるのは明らかだ。経済の低迷と深刻化する人道危機が、政治的混迷を深めようとしている。このままではミャンマーは、暗黒の底なし沼に沈みかねない。

 そうなって喜ぶのは中露だけだ。有事にインドシナ南部の流通回廊を遮断されるマラッカリスクを抱える中国にとって、雲南省からインド洋に陸路で抜けられるミャンマーは地政学的な要衝だし、ロシアにとっては有力な武器輸出市場だ。

日本独自のパイプ活用を

 わが国は軍とNLD双方にパイプを持つと期待されてきたが、未だそのパイプは活(い)かされていない。これを活用するとともに、ASEANなどと協力し、正常化へのロードマップを早急に作成する必要がある。