麻生氏の発言、台湾有事への備え万全にせよ


 麻生太郎副総理兼財務相が「中国が台湾に侵攻した場合、安全保障関連法が定める『存立危機事態』に認定し、限定的な集団的自衛権を行使することもあり得る」との認識を示した。

 集団的自衛権行使も

 存立危機事態とは、2015年に第3次安倍政権の下で整備された安全保障関連法で新たに認められた概念で「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」事態を意味する。武力行使の要件の一つとされ、集団的自衛権の限定的な行使が可能となる。

 どの国がどのような状況にあれば存立危機事態に該当するかについて、一般論としては「実際に発生した事態の個別具体的な状況に即して、さまざまな情報を総合して、政府が客観的合理的に判断する」(加藤勝信官房長官)ということになろう。

 日本と台湾は、日米関係とは異なり、同盟条約を結んでいるわけではない。また1972年の日中国交正常化以降、正式な外交関係も存在してはいない。しかし、台湾はわが国と同じ東アジアに位置し、自由と民主主義を掲げている。また親日的な台湾と日本との間には、政治経済関係にとどまらず、人的文化的な交流などあらゆる面で太い絆があることも事実だ。さらに台湾が日本のシーレーン(海上交通路)を扼(やく)する戦略的要衝であることも忘れてはならない。

 仮に中国が台湾を武力併合した場合、台湾の民主主義は踏みにじられる。そのような事態は東アジアのみならず自由世界に対する重大な脅威であり容認することはできない。台湾を突破口に中国の海洋進出はさらに加速され、中東から南シナ海を経て日本に石油などを運ぶタンカーの航行は危うくなる。

 中国が台湾に侵攻する場合、東シナ海の制空権、制海権を確保するため、尖閣諸島にとどまらず先島諸島を奪取、制圧し、さらに米軍が駐留する沖縄本島を攻撃することも想定しておかねばならない。台湾の危機や有事は、即日本の危機であり有事でもある。存立危機事態に該当するケースも考えられる以上、さまざまな事態を想定して十分に対応策を練っておく必要がある。仮定の話だからと、麻生氏の発言を軽視すべきではない。

 菅義偉首相は4月の日米首脳会談で「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調する」と明記した共同声明を発表し、日本の安全保障にとって台湾が重要であるとの認識を明確にした。今回の発言は、あくまで麻生氏個人の見解とみるべきだが、中国共産党創立100年の記念式典で習近平総書記(国家主席)が台湾統一を「歴史的任務」と語るなど、台湾海峡の緊張は日増しに高まっている。

 首相は指導力発揮を

 その中で、万一台湾有事が起きた際、日本政府は如何(いか)に対応するのか、また日米共同声明を踏まえ、わが国の防衛政策の中に台湾問題をどのように取り込んでいくのかなど政権として取り組む課題は多く、しかも時間の余裕はない。菅首相の指導力の発揮が求められる。