変わる「丘の上の町」 米国民の2割が無宗教

米建国の理念はどこに(14)

131013-1

昨年11月の米大統領選で再選を果たしたオバマ大統領とバイデン副大統領(UPI)

 2012年の米大統領選は、候補者の「信仰」をめぐり過去に例のない選挙 だった。共和党のミット・ロムニー候補はモルモン教徒。副大統領候補は民主・共和両党ともカトリック。プロテスタントはオバマ大統領だけだった。

 そのオバマ氏もキリスト教の信仰を持ったのは成人になってからだ。同氏の母親は、神の存在を認識するのは不可能と考える不可知論者だったとされる。元タイム誌記者で大学教授のデービッド・エイクマン氏は、「正副両大統領候補がいずれもプロテスタントとして育てられなかった米史上初めての大統領選だった」と指摘する。

 背景には、宗教をめぐる米国民の変化がある。「宗教と国民生活に関するピュー・フォーラム」が昨年実施した調査結果によると、プロテスタントが米人口に占める割合は48%だった。2007年の53%から徐々に低下し、ついに50%を割った。プロテスタントはもはや米国のマジョリティーではないのである。

 カトリック(22%)やモルモン教徒(2%)などその他の宗派は横ばい。増加傾向が唯一顕著なカテゴリーが、どの宗教組織にも属さない「無宗教」の人々だ。

 2007年に15・3%だった無宗教者は昨年、19・6%に拡大。米国民の5人に1人が宗教を持っていない計算になる。中でも、無神論者は1・6%から2・4%、不可知論者は2・1%から3・3%にそれぞれ増加している。

 米国は欧州と比べると、はるかに宗教的な国だ。それでも、ブッシュ前大統領のスピーチライターだったマイケル・ガーソン氏は、ワシントン・ポスト紙のコラムで「米国もとうとう欧州のような世俗化の道をたどっている」と指摘した。

 米社会の世俗化は政治の潮流にも影響を及ぼしている。無宗教者はリベラル傾向が強く、ピュー・フォーラム調査によると、7割以上が同性婚と中絶合法化を支持。昨年の大統領選出口調査では、70%がオバマ氏に投票した。

 無宗教者は民主党支持者の24%を占め、今や白人プロテスタント(23%)、黒人プロテスタント(16%)、白人カトリック(13%)を凌ぐ党内最大勢力だ。これに対し、共和党では依然、宗教保守派が主要支持基盤の地位を占めている。

 これについて、ガーソン氏は「米国は一つの世俗政党と一つの宗教政党を持つ方向へと進んでいる。これは分極化を新たなレベルの激しさへと導くものだ」と述べ、民主党と共和党の党派対立は価値観を中心とした争いとなり、烈度を一段と高めることになると予想する。

 党派対立は価値問題だけでなく、政府の在り方や経済、外交など多岐にわたり、世俗政党対宗教政党という単純な構図には収斂しないとの指摘もある。それでも、同性婚について民主党議員の大多数が支持、共和党議員の大多数が反対と真っ二つに割れており、価値問題をめぐる対立が先鋭化しているのは事実だ。

 昨年、共和党が党大会で採択した綱領には、「神」という言葉が12回出てくるのに対し、民主党大会で当初採択された綱領はゼロ。欠落を批判された「エルサレムはイスラエルの首都」という記述とともに、「神」を綱領に加えようとしたところ、多くの民主党員がこれに反対。党指導部が修正案を無理やり採択すると、会場からブーイングが巻き起こった。

 建国以来の宗教的伝統が失われつつある米国はどこに向かうのか。エイクマン氏は言う。

 「『丘の上の町』が世俗化し続ければ、いずれ宗教を全く実践しない候補者が大統領選を争う日も想像に難くない」

(ワシントン・早川俊行)

=終わり=