LGBT外交 同性愛者擁護が優先課題
米建国の理念はどこに(13)
2011年12月、スイス・ジュネーブの国連欧州本部。「世界人権デー」に合わせ、当時のヒラリー・クリントン米国務長官が演説した。国際社会が対処すべき喫緊の人権問題として、クリントン氏が強調したのが「LGBT」の権利拡大だった。
LGBTとはレズビアン、ゲイ、バイセクシャル(両性愛者)、トランスジェンダー(性転換者)の総称。混乱を極める中東、核開発を続ける北朝鮮とイラン、覇権主義的傾向を強める中国など、舵取りの難しい外交課題が山積する中で、クリントン氏はこう宣言した。
「オバマ政権はLGBTの人権擁護を外交政策の優先課題として取り組む」
イスラム教国を中心に同性愛に厳格な国は少なくない。だが、クリントン氏は「米国人が人権擁護を訴える時に引き合いに出すのが『歴史の正しい側に立て』というフレーズだ」と主張。同性愛を不道徳とみなすのは時代遅れと言わんばかりだ。
クリントン氏は具体的施策として、同性愛者らの権利を侵害する事例や法律があれば、世界各国の米大使館を通じて懸念を提起していくほか、国務省にもこの問題に専属で取り組む部署を設置したことを明らかにした。また、世界各地の同性愛者団体などを支援する「グローバル平等基金」を立ち上げ、300万ドル以上を拠出すると発表した。
後任のジョン・ケリー国務長官も、6月の「LGBTプライド月間」に発表した声明で、「普遍的人権の擁護は米外交の中心だ。LGBTを含め、すべての人々の人権促進に取り組む」と表明している。
オバマ大統領は、駐オーストラリア、スペイン、デンマーク、欧州安保協力機構(OSCE)の各大使に同性愛者を起用。同性愛者の権利拡大を後押しする手段として大使人事を積極活用している。また、9月にロシア・サンクトペテルブルクで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議に出席した際、LGBT団体の代表者と面会した。
米保守派団体「イーグル・フォーラム」のフィリス・シュラフリー会長は、「建国の父たちが、他国に同性婚や性転換手術を促進することが『米外交政策の優先課題』だと聞いたら、間違いなく仰天するだろう」(著書『至高の権力』)と嘆く。
建国の父たちは独立宣言で、人間の権利は創造主から賦与されたものだと明記した。だが、オバマ政権は同性愛者らの権利を普遍的人権と主張するものの、「その権利がどこに由来するのか言及していない」(シュラフリー氏)。オバマ政権が神抜きの世俗的ヒューマニズムを基盤にしていることは明らかだ。
オバマ政権による「世俗的、進歩的考え方の押し付け」(同氏)に対し、他国から反発が起きている。カトリック教徒が多いカリブ海のドミニカ共和国では、オバマ政権が次期大使に同性愛者のジェームズ・ブルースター氏を指名したことに、宗教界が激しく抗議している。
ブルースター氏は全米最大の同性愛者団体「人権キャンペーン」の理事を務める活動家。外交経験は皆無にもかかわらず、多額の政治献金を集めてオバマ氏の再選に貢献した論功行賞で起用された。
信仰の自由を求めて新大陸に渡ってきたピューリタンは、他国の道徳的模範となる社会を目指した。だが、全世界が仰ぎ見る「丘の上の町」は今、世俗的価値観を他国に押し付ける国となっている。
(ワシントン・早川俊行)