虚飾のキリスト教信仰 欲しかったのは「肩書」か

米建国の理念はどこに(7)

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2008年6月、シカゴの黒人教会でスピーチするオバマ氏(UPI)

 オバマ米大統領が初めてジェレマイア・ライト牧師のもとを訪ねたのは1985年の夏だった。当時、住民運動を組織するコミュニティー・オーガナイザーとして、シカゴの有力黒人教会を率いるライト師の力を借りようとしたのだ。オバマ氏がライト師に接近したのは、信仰を求めていたからではなく、政治的な動機だった。

 ニューヨーカー誌のデービッド・レムニック編集長が綿密に描いたオバマ氏の評伝『ザ・ブリッジ』は、ライト師にインタビューした内容を交えながら、2人が初めて面会した時の様子を記している。それによると、「オバマ氏はライト師に魅了され、個人的なことを語り始めた」という。ライト師はその時のやりとりをこう述懐している。

 「彼はこう言っていた。『私は他人の信仰を否定しない信仰を探している。私が耳にするのは、信じなければあなたは地獄に落ちる、そんな話ばかりだ』と。彼は私からそういう話を聞かなかった」

 オバマ氏は地元教会の組織化に取り組む立場上、どこかの教会に所属する必要性を感じていたが、この面会をきっかけにライト師に師事することになった。ライト師の相対主義的な教えに感銘を受けたことがうかがえる。

 レムニック氏によると、オバマ氏は伝統的なキリスト教信仰を重視する別の黒人教会に通うこともできたという。だが、黒人解放神学に傾斜し、政治色の強いライト師を選んだのは、自身のリベラルな思想と共鳴するものがあったと考えられる。

 ジャーナリストのエドワード・クライン氏も、著書『ザ・アマチュア』でライト師との極めて興味深いインタビュー内容を紹介している。

 ライト師は、オバマ氏から「私はイスラム教を学んだ。キリスト教を理解するのを助けてほしい」と求められ、「(キリスト教の)基本から始めよう」と応じたという。このやりとりに関し、クライン氏が「あなたはオバマ氏をイスラム教からキリスト教に改宗させたのか」と尋ねると、ライト師はこう答えている。

 「それははっきり分からない。私は彼にイエスが誰なのか自分で決めて構わないと納得させた。彼の家族のイスラム教要素やイスラム教徒の友人をけなす必要はないと言ったんだ」

 オバマ氏は自らを「敬虔なキリスト教徒」だと言っているが、ライト師でさえ、オバマ氏が本当にキリスト教を信じているのか確信を持てないのである。

 ライト師はまた、ミシェル夫人の信仰心の薄さにも言及している。

 「ミシェルはバラク(オバマ氏)と結婚するまで、どの教会にも所属していなかった。(ライト師の)教会に来た後も、子供たちを教会の日曜学校で育てようとはしなかった。ミシェルは母親に連れられ、教会や日曜学校に通った黒人女性ではなかった。そのような環境で育ってこなかったのだ」

 ライト師は「教会は彼らの精神生活になくてはならない存在ではなかった」とまで言い切る。それでも、オバマ氏が教会に所属し続けたのはなぜか。その理由は政治目的だったと、ライト師は認める。

 「教会はバラクの政治になくてはならない存在だった。彼は黒人の基盤を必要としていたからだ」

 米国では建国以来、非キリスト教徒が大統領になったことはない。オバマ氏が欲しかったのは、黒人教会の集票ネットワークとキリスト教徒という「肩書」だったのかもしれない。

(ワシントン・早川俊行)