信仰を「矯正」する大学 まるで中国の思想改造

建国の理念はどこに(11)

131010

オーガスタ州立大学の「矯正プログラム」を拒否したジェニファー・キートンさん

 ジョージア州にあるオーガスタ州立大学の大学院生だったジェニファー・キートンさんは、学校カウンセリングの修士号を取得するため、勉学に励んでいた。1年目の課程を終え、実際に生徒を相手にしたカウンセリング実習が始まろうとしていた2010年、大学側からこう告げられた。

 「矯正プログラムを受けなさい。さもなければ、カウンセリングコースは続けられない」。キートンさんはカウンセラーとしての資質に「問題あり」とみなされたのだ。

 大学から問題視されたのは、キートンさんが敬虔なキリスト教徒として、同性愛者の性的指向はその個人の選択であり、固定化されたものではないと信じていたことだった。キートンさんは同性愛者の生徒を担当することになった時、性的指向を変えられるよう手助けしたいと考えていた。

 大学はこの考え方を「米国カウンセリング協会(ACA)」の倫理規定に反すると判断し、矯正プログラムを受けさせることを決めた。だが、その内容は、キートンさんにとって到底受け入れられるものではなかった。

 矯正プログラムは、キートンさんが誤りと信じる同性愛を肯定的に受け入れさせることに主眼が置かれ、ゲイパレードに参加することまで要求した。また、プログラムがキートンさんの信念にどのような影響をもたらしたか、毎月、リポートを提出させ、考えを改めたことが確認されない限り、カウンセリングコースには戻さないと伝えた。

 大学側からキリスト教信仰を放棄するよう強要されたと感じたキートンさんは、矯正プログラムを拒否した上で、大学を提訴した。これに対し、大学はキートンさんがカリキュラムの要件を満たさなかったとしてカウンセリングコースから除籍。連邦地裁は昨年、キートンさんの訴えを退けた。

 元タイム誌北京支局長で宗教関連の著作も多いジャーナリストのデービッド・エイクマン氏は、大学がキートンさんに課そうとした矯正プログラムをこう批判する。

 「自らの政治犯罪を告白させ、自分がいかに恥ずべき人間かを書かせて洗脳する、中国の文化大革命時代に行われた思想改造と同じだ」

 大学から「思想改造」を命じられたのはキートンさんだけではない。

 東ミシガン大学の大学院生だったジュリア・ウォードさんもカウンセラーを目指していた。2009年にカウンセリング実習が始まると、同性愛関係で相談を求める人を割り当てられた。実習では同性愛を肯定する助言をしなければならないが、それはキリスト教徒としての宗教的信念に反する。このため、別の人を割り当ててほしいと申し出た。

 交代を申し出ることはACAの倫理規定で認められた行為だったが、大学はこれを認めず、矯正プログラムを受けるよう要求。ウォードさんはこれを拒否し、カウンセリングコースから除籍された。裁判を起こしたウォードさんは勝訴を勝ち取り、大学が賠償金を支払うことなどで和解した。

 キートンさんとウォードさんの弁護を担当した保守系法曹団体「自由防衛同盟」は、「公立大学は学位取得の条件として学生に宗教的信念に反することを強要すべきではない」と主張する。2人の裁判は明暗が分かれたが、「大学内の“宗教ハラスメント”の深刻さを物語る」(エイクマン氏)事例だ。

(ワシントン・早川俊行)