増えるリベラル派判事 モーゼの十戒を六戒に?

米建国の理念はどこに(9)

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リベラル派人権・法曹団体「全米自由人権協会(ACLU)」のアンソニー・ロメロ事務局長(UPI)

 バージニア州の連邦地方裁判所。昨年5月、マイケル・アーバンスキー判事が提示した和解案に原告、被告の双方が耳を疑った。

 「モーゼの十戒を六戒にしたらどうか」――。

 左翼勢力は1980年以降、「モーゼの十戒」が書かれた石碑や額を公的施設に飾るのは政教分離の原則に反するとして、各地で撤去を求める訴訟を起こしており、この裁判もその中の一つ。同州南西部ジャイルズ郡の高校に掲げられていた十戒をめぐる裁判で、アーバンスキー判事は学校側に対し、十戒から宗教色をなくすため、神への信仰を説いた最初の四つの戒めを削除してはどうかと主張したのだ。

 学校側の代理人は過去に最高裁まで行った十戒訴訟の弁護を担当した人物だったが、判事の和解案はその十戒訴訟のエキスパートにさえ「聞いたことがない」と言わしめる異例の内容だった。このアーバンスキー氏を判事に選んだのはオバマ大統領である。

 ジャイルズ郡の公立学校に十戒が掲げられるようになったのは1999年。同年、コロラド州コロンバイン高校で13人の犠牲者を出す銃乱射事件が発生したことを受け、地元牧師が殺人や盗み、嘘をつくことなどを戒めた十戒は、生徒の教育に有益と考え、額縁に入れて贈ったのが始まりだった。

 だが、2010年、地元高校に通う生徒の苦情を受けた無神論者団体「宗教からの自由財団(FFRF)」から撤去を求める書簡が届く。豊かな自然に囲まれた保守的なジャイルズ郡は突如、「十戒騒動」に巻き込まれることになる。

 学校側は十戒を撤去し、訴訟に発展するのを避けようとしたが、地元牧師や一部生徒らがこれに反発。教育委員会は苦肉の策として、独立宣言や合衆国憲法の権利章典、ピルグリム・ファーザーズの「メイフラワー契約」などと一緒に掲示し、十戒を歴史的文書の一つと扱うことで宗教性を薄めようとした。

 だが、リベラル派を代表する人権・法曹団体「全米自由人権協会(ACLU)」は、世俗化圧力に必死に抵抗する地元住民をあざ笑うかのように教育委員会を提訴した。

 ACLUなどリベラル派団体が十戒訴訟を積極的に推し進めるのは、裁判に勝てば相手から多額の訴訟費用をむしり取れるという金銭的理由も大きい。訴訟費用を支払う余力のない小さな自治体は、自主的な撤去を余儀なくされるケースも少なくない。

 今年5月には、人口約3500人ほどのオクラホマ州の小さな町が、公立学校の教室に掲げられていた十戒を撤去しなければ裁判を起こすとFFRFに脅され、やむなく撤去を決定している。

 ジャイルズ郡も敗訴を避けるため、十戒の額を撤去する代わりに、歴史教科書の十戒の記述があるページを拡大コピーして掲示することで和解した。

 ACLUなど過激な左翼団体は十戒に限らず、あらゆるキリスト教的要素を公の場から排除しようと訴訟に次ぐ訴訟を起こす。これに対し、リベラル派判事が彼らの主張に同調する判決を下す。過去50年以上、この繰り返しによって、米社会は「脱宗教化」を強いられていると言っても過言ではない。

 奇異な和解案を提示したアーバンスキー判事の例が示すように、オバマ大統領はリベラル派判事を法廷に数多く送り込んでいる。中でも、イリノイ州の連邦高裁判事に選んだデービッド・ハミルトン氏は、ACLUインディアナ支部の元幹部。カリフォルニア州連邦地裁判事のエドワード・チェン氏も、ACLUの専属弁護士を15年以上務めた人物だ。

(ワシントン・早川俊行)