ライト牧師の過激思想 ルーツはマルクス主義

米建国の理念はどこに(6)

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2008年4月、ワシントンのナショナル・プレス・クラブで講演するジェレマイア・ライト師(UPI)

 2008年3月、衝撃の映像が米国のお茶の間に流れた。上院議員だったオバマ大統領が民主党の大統領候補指名争いで、ヒラリー・クリントン氏とデッドヒートを繰り広げていた時期だった。

 「政府は我々(黒人)に『ゴッド・ブレス・アメリカ』を歌わせるが、違う! ゴッド・デム・アメリカ(米国に神の呪いあれ)だ!」

 米国への憎悪をむき出しにした過激なレトリック。興奮を抑えきれず、立ち上がって拍手喝采を送る聴衆。政治集会でも見られないこの異様な光景は、あるキリスト教会の日曜礼拝の一こまだった。

 その教会とは、シカゴにあるトリニティ・ユナイテッド教会。オバマ氏が20年以上所属していた黒人教会である。オバマ氏が師事するジェレマイア・ライト牧師が、反米・白人敵視の過激な説教を繰り返していたことをABCニュースが報じ、大騒ぎになった。

 ライト師は2001年の同時テロ後に行われた最初の日曜礼拝で、米国が広島、長崎に原爆を投下したことなどを挙げ、「我々が海外でしてきたことが自分たちに跳ね返ってきたのだ」と主張。また、「エイズウイルスは黒人を抹殺するための米政府の陰謀」といった極論を展開したこともある。

 オバマ氏は大統領選への影響を考慮し、ライト師との縁を切ったが、それまで極めて緊密な関係を築いていた。ミシェル夫人との結婚式や2人の娘の洗礼をライト師に委ねたほか、2冊目の著書の題名もライト師の説教から採っている。

 ジャーナリストのエドワード・クライン氏は、大統領として未熟なオバマ氏の実像を描いた著書『ザ・アマチュア』で次のように書いている。

 「ライト師はオバマ氏にとって宗教的、精神的指導者以上の存在になった。父親の代わりであり、人生の師であった。父親に飢えていたオバマ氏の心を満たし、大統領選に出馬する心構えをさせたのはライト師だったと言っても過言ではない」

 そのライト師が信奉するのが、黒人を白人の抑圧の犠牲者と捉える「黒人解放神学」だ。キングズ・カレッジ(ニューヨーク)のアンソニー・ブラッドリー准教授によると、同神学はマルクス主義を土台にしているという。

 「黒人解放神学の理論家たちは黒人教会の倫理的枠組みとして、マルクス主義への支持を明確に表明している。なぜなら、マルクス主義思想は抑圧者階級(白人)対犠牲者階級(黒人)のシステムに立脚しているからだ」(論文『黒人解放神学のマルクス主義のルーツ』)

 ライト師の教会は「経済的均衡」を指針の一つに掲げているが、この言葉は「カール・マルクスの歪んだ経済観」を普及させるための「暗号」であると、ブラッドリー氏は指摘する。

 オバマ氏が師と仰いできたのは、このような過激な思想を持つ人物だったのだ。保守派団体「イーグル・フォーラム」のフィリス・シュラフリー会長は、「ライト師の社会主義的な解放神学はオバマ氏の世界観を形成した」(著書『至高の権力』)と断言する。

 実際、オバマ氏は富裕層への増税案に反対意見を述べたオハイオ州の男性に、「あなたが富を分配すれば、それは全ての人にとって好ましいことだ」と発言したことがある。

 このような人物との師弟関係が明るみに出れば、大統領選からの脱落を余儀なくされてもおかしくない。だが、オバマ氏寄りの大手メディアが深く追及しなかったため、大きな痛手にはならず、当選を果たしている。

(ワシントン・早川俊行)