米国、財政の非常事態に突入
共和党保守派、オバマケア阻止に全力
米国の財政が非常事態に突入している。与野党対立が深まり、米政府は10月1日、一部閉鎖に追い込まれた。期限が迫る債務上限引き上げにも影響を及ぼす公算が強まっており、米経済のみならず世界経済にとっても深刻な事態を生み出しかねない。
(ワシントン・久保田秀明)
深刻な「債務上限引き上げ」未決定
米国の与野党の対立は、2010年に制定され近く本格的施行段階に入る医療保険改革法(オバマケア=米国版国民皆保険)をめぐって展開された。ティーパーティー(茶会)運動の支持を受けた共和党保守派下院議員グループは、同法の施行を1年間遅らせることを、2014会計年度用暫定予算案に盛り込んだ。オバマ大統領と民主党主導の上院は暫定予算案を同法の施行にリンクさせることを拒絶し、新年度の暫定予算案は可決されないままに米政府は17年ぶりに一部閉鎖となった。
米軍の正規軍、法執行機関、郵便などの機能は縮小維持されているものの、数十万人の連邦政府職員が一時帰休となり、多くの政府機関や国立公園などが閉鎖されている。オバマ大統領はアジア訪問を中止するなど、外交面でも影響が出始めた。前回の閉鎖は1996年で21日間続いたが、今回も長引きそう。
政府一部閉鎖の経済的損失は1日3億ドルと試算されているが、長期化する場合は損害は無視できない。多くの政府との契約事業に直接影響が出るだろう。企業や消費者の米政府、米経済への信頼感が損なわれ、高額支出を控える可能性が強まる。議会への国民の支持率は10%を切った。米経済は回復基調にあるとはいうものの、連邦準備理事会(FRB)が量的緩和策継続を決定したことにも反映されているようにまだまだ脆弱だ。経済成長が阻害され、景気後退に再び突入するリスクもないとは言えない。
政府閉鎖をめぐる国民の政府、議会批判が強まっているが、閉鎖の主因を作った共和党は医療保険改革法などで何らかの譲歩を勝ち取らないと引っ込みがつかなくなっている。これに対してオバマ大統領を含む民主党は共和党への敵対意識を強めており、共和党にいかなる譲歩も拒絶している。96年閉鎖時には当時のクリントン大統領とギングリッチ下院議長は毎日話し合ったが、今回は大統領と下院議長の間にほとんど接触がない。与野党の関係は一層険悪化しているわけで、このことからも閉鎖は長引きそうだ。
問題は、与野党の対立が間近に迫る債務上限引き上げにも波及することである。もともとベイナー下院議長は、茶会派の共和党保守派議員に対して、政府閉鎖を引き起こし得る暫定予算案で与党と対決するのは避け、10月17日の債務上限引き上げの際に対決するよう説得しようとしていた。結局、30~40人の茶会派議員グループに押し切られた形だ。しかし政府閉鎖までして医療保険改革法阻止に向けて成果が得られなければ、保守派は債務上限引き上げをめぐり与党と新たな勝負に出る可能性が強い。そうなると、与野党の駆け引きは米経済を通りこして世界経済に影響を及ぼす。
ルー米財務長官は先月25日、現在16兆7000億ドルとなっている連邦政府の債務上限を引き上げなければ、10月17日に米政府の手元資金がほぼ底をつくという見通しを明らかにした。同長官はベイナー下院議長はじめ議会指導者に、債務上限引き上げを無条件で即時承認するよう要請した。オバマ大統領は「債務上限引き上げを(財政問題の)交渉材料にはしない」と早くから宣言した。共和党は歳出拡大に強く反対する立場から、債務上限の引き上げ幅と同じ額の歳出カットや医療保険改革の修正を求めている。
議会の与野党対立で17日の期限までに債務上限引き上げが実施されないと、米国債の利払いなど「支払い義務を履行するのは不可能」(ルー長官)になり、債務不履行(デフォルト)に陥ることになりかねない。米国債の信用失墜、金利高騰、ドル価下落、金融市場の凍結、株式市場大暴落などが懸念されている。
債務上限は1917年の第2自由公債法で導入され、1962年以来米議会は70回以上、上限引き上げを承認しており、債務不履行になることはなかった。これが米国債の安全な金融商品としての信用を確保してきた。ただ2011年夏に与野党の政争で債務上限引き上げが問題になった後、米国の格付け機関スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が米国債の格付けをAAAからAA+に格下げし、世界の金融市場に衝撃を与えた。ましてや、デフォルトとなるとその衝撃は計り知れず、世界経済、金融市場を大混乱に陥れることになる。






