ウズベキスタン・カムチク峠 東西回廊のトンネル開通へ

中央アジア胎動 中国「新シルクロード」と日本の戦略(7)

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 ウズベキスタンは中央アジア5カ国のほぼ中央に位置し、人口は3000万と5カ国中最大だ。国土は東西に長く、いわゆる新シルクロード構想の中では、中国からカフカス地方へ至るもう一つの回廊に位置する。

 同国は独立後、国内のインフラ整備に務め、鉄道網の延伸と近代化を進めてきた。国営鉄道会社ウズベキスタン・テミル・ヨラリ(ウズベク鉄道)によると、独立後、ウルクドゥク―ナボイ間など3路線1200㌔が整備された。そのうち1000㌔が電化されているという。タシケント―サマルカンド間には、時速250㌔の高速鉄道も走っている。

新シルクロード経済圏構想の中で重要となるのは、現在建設中のアングレン―パプ鉄道だ。首都タシケントと同国の人口の3分の1が集中するフェルガナ盆地との間を鉄道で往(ゆ)き来するには、タジキスタンを経由しなければならない。車で行くには、標高1200㍍のカムチク峠を越えなければならず、冬になると通行できなくなることもある。

 そこで、カムチク峠にトンネルを掘り、首都タシケントから鉄道の通じている南東77㌔のアングレンからフェルガナ盆地のパプまで鉄道で結ぶ工事が2013年にスタートした。

 プロジェクト総額は16億3000万㌦。ウズベク鉄道や国家予算に加え、中国輸出入銀行から3億5000万㌦、世界銀行から1億9500万㌦が融資される。中央アジア最長の19㌔の長さのトンネルの工事は、中国の会社が請け負っている。全長124㌔のうち103㌔、トンネル部分も15㌔まで工事が進み、来年には路線が開通する見通しという。

 アングレン市内から、車を10分ほど東へ走らせると、既に工事が完了した鉄道が見えた。新しい鉄道の先はカムチク峠だ。

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カムチク峠の手前、アングレン―パプ鉄道の新しい線路=アングレン市の郊外

 この路線の開通が及ぼす国内的な影響について、ウズベク鉄道のプロジェクト・リーダー、ナウルズ・エルキノフ氏は、「フェルガナの人々の生活は格段に便利になる。またフェルガナは農業の盛んな地域だが、化学工場などたくさんの工場もあるので、経済効果は大きい」と語る。

 パプからフェルガナ盆地の東端にあるアンディジャン間も在来線があるので、この路線が完成すれば、タシケントとアンディジャンが繋(つな)がることになる。アンディジャンのすぐ東はキルギスとの国境だ。

 「将来は東へキルギスのオシュまで路線を伸ばし中国のカシュガルまで繋げ、西へはカフカス地方に繋がる国際鉄道にしようという構想がある。この路線が開通すれば、1年間に1000万㌧の貨物が通過すると予想されている」と期待を膨らませる。

 日本が得意とするトンネル工事は中国に持っていかれたが、日本とウズベキスタンの鉄道での協力関係はもともと深い。南部カシカダリア州の州都カルシとスルハンダリア州の州都テルメズ間の鉄道電化事業が、日本のODA(政府開発援助)で進められている。

 「日本は高い技術を持っている。日本のような安全で速い鉄道をわれわれもつくりたいと思っているので、日本とは良い関係を続けていきたい」とエルキノフ氏は言う。

 高速鉄道のインフラ輸出では、日本はインドネシア政府の露骨な“変節”に遭った。しかし、日本の鉄道技術やノウハウへの期待は高い。この苦い経験を踏まえながら、安全と速さ、そしてきめ細かさを武器にウズベキスタンをはじめとした中央アジアの国々への援助と緊密な関係を強化してゆくべきだろう。

(藤橋 進、写真も)