ISUZUのトラック走る 産業、市民の足として大活躍

中央アジア胎動 中国「新シルクロード」と日本の戦略(9)

800

ほぼ完成したいすゞの消防車の前に立つ工員たち

 もともと人種や言語も近い中央アジアの国々だが、独立から四半世紀を経て、国柄もだいぶ異なってきた。走っている車を見ても、国境を跨(また)ぐとがらりと変わる。

 キルギスでは、乗用車は中古の日本車が圧倒的に多い。「欧州製の新車より、日本の中古車の方が故障しない」と言われるくらい評判がいい。首都ビシケクでは、この中古車に交じって、左ハンドルの新車、特にトヨタ・レクサスのスポーツタイプ多目的車(SUV)が結構走っている。カザフスタンの工場で組み立てられた車だ。

 隣のウズベキスタンに入ると、今度は圧倒的に米ゼネラル・モーターズ(GM)のシボレーが目立つ。この車はGMとウズベキスタンの合弁会社「GMウズベキスタン」がつくったもので、国産自動車の約95%のシェアを占める。トヨタ車などもたまに見掛けるが、乗用車に限れば日本車の存在感は小さい。

 しかしバスやトラックに目を向けると、町の中でも高速道路でも「ISUZU」マークの車がたくさん走っている。首都タシケントでもサマルカンドなどの地方都市でも、路線バスはほぼ例外なくISUZUである。

 これらいすゞの車は、現地の組み立て会社、サマルカンド自動車工場(SAF)でつくられたものだ。シベリアや中国経由で、エンジンをはじめとした本体部分を輸送し、組み立てている。輸送業務は伊藤忠が行っている。

サマルカンド郊外のSAF社工場を訪ねた。総面積15・2㌶、約1000人が働いている。バスは外枠部分をこの工場でつくり塗装も行っている。敷地内には試験運転場も置かれている。

 2007年から本格販売を開始し、順調に販売台数を伸ばし、14年には4000台を販売した。14年の内訳で見ると、バスが1100台、トラックが2900台で、トラックの伸びが顕著だ。この国の経済の発展と共に需要が伸びているようだ。

 ムルタゾ・ガニエフ副工場長の説明で驚いたのは、日本から送られるトラックが、荷台部分のバリエーションで、ダンプや廃棄物回収車はじめ30以上の種類の車につくられていることだ。中には消防車もある。政府からの注文という。

 通訳のマリアム・ナザローヴァさん(28)も、「消防車はトルコあたりで組み立てられ輸入しているのかと思っていた」と自国内で生産されていることに感動していた。

 いすゞの路線バスは市民生活に欠かせない足となり、トラックは産業分野はもとより、廃棄物回収車や消防車など、市民生活を支える重要な役割を果たしている。乗用車のような華やかさはないが、その働きは大きい。

 同工場では、この国の特徴を生かした圧縮天然ガス(CNG)を燃料にした車の生産も行われている。輸入に頼る石油より豊富にある天然ガスを使おうという国策に沿ったものだ。CNG車はエンジン部分からガソリン車とは違うので、日本のいすゞがつくって送っている。17年には1300台を生産する計画という。

 フロントガラスや座席シート、バンパーなどはウズベキスタン国内でつくるようになった。付属部品の自国内生産は着実な産業の育成を促している。

 町でいすゞの車を運転している人に評判を聞いてみた。タシケント市内で路線バスを運転しているウミッドさんは「とても使いやすい。1年間運転して一度も故障したことがない」と満足そう。

 「社員たちも、高い性能を持ったいすゞの車をつくっていることを誇りに思っている」とガニエフ副工場長は言う。できたばかりのいすゞの消防車の前に、この車を組み立てた工員さんたちに並んでもらい写真を撮った。彼らの表情にそんな気持ちが表れていた。

 いすゞ自動車は、この夏、SAF社の株を8%取得した(伊藤忠は以前から8%保持)。「関係をさらに強化することが目的」(菅原浩明・海外営業第三部部長)という。将来的には年間1万台規模の販売を目指す。

(藤橋 進、写真も)