中国西進へ着々と布石

中央アジア胎動 中国「新シルクロード」と日本の戦略(1)

「100年マラソン」の一環

 中国が推進する建国史上最大級のプロジェクト、一帯一路(新シルクロード)構想が動き出した。「一帯一路」とは、中国から陸路(一帯)と海路(一路)を通過して欧州にいたる「新シルクロード経済圏」を言う。その中核となる「ユーラシア大陸のハートランド」中央アジア5カ国を安倍晋三首相は今月下旬に歴訪する。中央アジアの現地から中国の狙いと我が国がとるべき戦略を探った。

ユーラシア経済圏構築 米追い落し図る

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 陸のシルクロード経済圏を当て込んで、中央アジア諸国と国境を接する新疆ウイグル自治区に資金と人が集まるようになった。

 これまで経済成長をけん引してきた沿海地方とすれば、蓄財を成長減速著しい同地区に振り当てるより、潜在成長力に富む新興地に投資したほうが見返りは大きいという判断があるからだ。事実、2014年通年の中国全土の経済成長が7・4%と鈍化する中、新疆では10・0%の高成長を記録した。

 その新疆西部にある中核都市がカシュガルだ。カシュガルでは片道4車線、全長10㌔の大通りが造られ、高さ280㍍のツインタワーの建設も始まった。タリム油田技師の谷坤(グオシン)氏は「カシュガルは、西の深●(「土へん」に「川」)だ」と言う。改革開放の旗を掲げた当初、深●は香港や西側世界を結ぶ橋頭堡として機能したが、カシュガルも中央アジアを結ぶ結節点としての機能が求められていると言うのだ。

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中国とキルギスの国境イシュケシュタム峠でイミグレが開くのを待つトラック群

 カシュガルではキルギスやタジキスタン、パキスタンなどに向かう国際バスターミナルが、使い古された往年のビルから移転し、全長200㍍の巨大ターミナルビルが完成したばかりだ。その近隣に広がる免税施設もほぼ完成し、来年にも開業の見込みだ。

 キルギスとの国境イシュケシュタム峠には、「新」ナンバーの22輪トラックがずらりと並ぶ。「新」とは新疆を意味する。目的地はキルギス第2の都市オシュ。オシュには店舗数2万のキルギス最大の巨大バザール・カラスウがある。別名チャイナ・バザールだ。鉄道貨車のコンテナを店舗にしたカラスウは、他の中央アジアからも業者が買い付けに来る中国製品の一大集積地となっている。

 中国が推進する「一帯一路」は、年産2400万台におよぶ自動車生産や9億㌧の粗鋼生産など自国消費を大きく上回る設備過剰による在庫一掃の市場を求めているだけではない。中央アジアや東南アジアを経由して欧州にまでいたる「西進」により中国を軸としたユーラシア経済圏を構築することで、名実共の富強国家に浮上しようとしているのだ。その立役者がアジア開発銀行、IMF(国際通貨基金)のライバル機関となるアジアインフラ開発銀行(AIIB)、BRICS開発銀行などの新国際金融システムであり、核戦力や宇宙、サイバーを含めた軍事能力でもある。そうしたすべての力を結集させた富強国家・中国という槍で、最終的に狙っているのはニューヨークとワシントンを“串刺し”にすることだ。

 習近平国家主席が言う「中華復興、中国の夢」の最終ゴールは、米国の時代に終止符を打ち、それに替わって中国が世界の覇権を握ることにある。そのためにもまずは、米国とは相互の核心的利益には手をつけない共存関係を構築しようと躍起になっている。それが中国がいう「新大国関係」の狙いだ。

 1991年のソ連崩壊後、中ソ国境に兵力を張り付ける必要がなくなった中国は南進の道を選択した。人口6億を擁する東南アジアに出ることで巨大なマーケットを担保し、天安門事件後の外交的孤立を脱却しようとしたのだ。

 その中国が西へと舵(かじ)を切った。2049年の建国100年を「中国の世紀」始動の年として迎えるための「100年マラソン」。「一帯一路」構想は、その中核をなすものであり、その第一歩となる中央アジアに次々と布石を打ちつつある。

(池永達夫、写真も)