キルギス・ドルドイバザール 経済同盟加盟で将来は不透明

中央アジア胎動 中国「新シルクロード」と日本の戦略(6)

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中国製の製品があふれるドルドイバザール

 キルギス共和国の首都ビシケク郊外にあるドルドイバザールに行くには、トロリーバスが便利だ。バスがバザールの入り口に着くと、満員の乗客が一斉に外に吐き出された。

バザールの中は、コンテナを二つに積み上げた店舗がずらりと並んでいる。下を店舗、上を倉庫に使っている。電気製品を売る店、おもちゃを売る店が並んでいる。工具、DVD、自転車など、ありとあらゆる製品が並んでいる。

 入り口近くで売られていた絨毯(じゅうたん)はトルコ製だったが、バザールで売られている品の約8割は中国製だ。

お客は周辺のカザフスタンやウズベキスタン、そしてロシアからも来る。衣料品店の中で、たくさんの買い物袋を抱えていたジュスフ・プシュモフさん(27)はカザフのアルマトイから奥さんを連れて買い物に来た。総額700㌦を使う予定という。

 おもちゃを売る店にふらりと入ってみた。おそらくはコピー商品と思われるディズニーの「アナと雪の女王」の人形がずらりと並んでいる。キルギス人店主アザフ・ジョルドシュさん(39)は、具体的な数字は挙げなかったが、「商売は上手(うま)くいっている」と言う。アザフさんは7人兄弟で、本人を含む4人がドルドイ・バザールにそれぞれ店を構えているという。

 天山山脈とイシククル湖など美しい自然はあるが、カザフスタンのような地下資源には恵まれてはいないキルギス。しかし中央アジアの国では最初に世界貿易機関(WTO)に加盟。国境を接する中国から低い関税で品物を輸入し、国内および周辺諸国のバイヤーに売る中継貿易で栄えるようになった。バザールが一気に活気づいたのは1998年ごろ、隣国中国の経済発展が後押しした。今やドルドイバザールの売り上げは、国内総生産(GDP)約72 億㌦の約3~4割に当たるという。

 駐車場には、トヨタのレクサスのスポーツタイプ多目的車(SUV)がずらりと並んでいる。日本でもなかなか見られない光景だ。バザールで儲(もう)けた人々の車だろう。

 しかし、このバザール景気がこれからも続くかどうかは不透明だ。ロシア、カザフスタン、ベラルーシ、アルメニアなどが参加するユーラシア経済同盟にキルギスも5月に加盟を決めたためだ。キルギス共和国日本人材開発センターの高坂宗夫共同所長は「段階的に輸入関税を上げてゆくことになるので、まだ大丈夫だが、この先10年後、従来のビジネスモデルは成り立たなくなるのではないか」と言う。

 しかし一方、バザールの製品以外でも、中国は、ビシケク市内の道路の整備など、インフラ整備で援助を行い存在感を強めている。また高坂氏によると、中国語や中国文化の普及施設、孔子学院が、ビシケクに2カ所、オシュに1カ所計3カ所ある。文化面でもその影響力を強めようとしている。

 キルギス人は日本製品の質の高さや、両国民の容貌が似ていることから、日本人に対し好感を持っているというが、中露の影響が強まる中、日本はどう対すべきか。高坂氏は「金額や物量では中国にはかなわない日本はやはり質で勝負するしかないと思う」と言う。

 同センターでは、日本語教育のほかビジネスのノウハウを教えることを柱に活動を展開している。ビジネスコースで学んだ実業家が、キルギスを代表するお菓子メーカーになるなどの実績を上げている。こういう人材の育成やノウハウの提供は、長い目で見て両国関係の大きな財産になるだろう。

(藤橋 進、写真も)