日米印の海上軍事演習、中国のインド洋進出を牽制
海洋安保で連携強化
米印両海軍が主催する合同海上軍事演習「マラバール」が今月中旬、インド南部のチェンナイで行われ19日、終了する。米海軍からは空母「セオドア・ルーズベルト」や原子力潜水艦、印海軍からはフリゲート艦が参加。日本も海上自衛隊の護衛艦「ふゆづき」と自衛隊員200人を派遣した。日米印3カ国が海洋安全保障で連携を強め、パキスタンやスリランカの港湾建設などインド洋進出へ布石を打つ中国を牽制(けんせい)する戦略的意義がある。(池永達夫)
マラバールとは、アラビア海に面したインド南部のゴア州からケララ州へと3州にまたがるマラバール海岸からきている。同海岸は紀元前3000年ごろから世界史に登場し、メソポタミア、アラビア、ギリシャなどでその存在が知られていた。同海岸のコーチンやカンヌールなど、インド洋貿易の中心的存在でもあった。
大航海時代のインド洋貿易は、アラビア海に吹いた季節風を利用したものだったが現在、真珠の首飾りと呼ばれる中国のインド洋進出が同海域安全保障の懸念材料として浮上するようになった。インド洋における日米印合同軍事演習には、明記こそされないが想定される牽制対象は中国だ。
そのインド洋での軍事演習に日本が参加するのは8年ぶりのことだ。
「マラバール」は1990年代に米印両海軍によって始まった。太平洋とインド洋でほぼ交互に開催されてきたが、日本が初参加したのは2007年。この時はインド洋での軍事演習だった。以後、太平洋上で行われた演習には海上自衛隊も参加してきたが、インド洋での演習については、中国の反発を恐れてインド政府が日本の参加に難色を示し、招待されることはなかった。
その流れが変わったのは今年9月、ニューヨークで初めて開催された日米印3カ国外相会談だった。同会談では海洋安保協力強化が確認された。インド紙などによると、日本の「マラバール」参加は今後、招待国としてのゲスト参加ではなく、固定メンバーとして参加することで合意したと報じられている。

15日、インド・チェンナイで、日米印の合同海上軍事演習「マラバール」の開始を受けて記者会見する村川豊海上幕僚副長(左から2人目)、インド海軍のベルマ中将(同4人目)、米海軍のオーコイン第7艦隊司令官(同5人目)(時事)
日米印海軍幹部は演習前の15日、インド南部チェンナイで会見。 米海軍第7艦隊のオーコイン司令官は「協調的な安全保障環境をつくるために自衛隊の定期的な参加を期待する」と述べ、海上自衛隊の役割に期待を示した。これに対し、海上自衛隊の村川豊海上幕僚副長は「相互運用性を高め、政府が掲げる積極的平和主義のもと3カ国の連携を深めたい」と述べた。また印海軍のベルマ中将は「3カ国はインド洋から太平洋にかけて平和と安定を確保する役割を担っている」と述べ、3カ国海軍協調の意義を強調した。
ただ豪海軍からもインド洋軍事演習「マラバール」への参加意向が伝えられていたものの、印海軍から招待状が届くことはなかった。インドとすれば、がらりと状況を変化させるような包囲網構築で中国をコーナーに追い詰めることを避け、一歩一歩、実績を積み上げることでバーゲニングパワー強化に動いているもようだ。
なお先月下旬に訪日したインド政策研究センターのブラーマ・チェラニー教授は笹川平和財団で講演し、中国の軍事的台頭を指摘した上で「平和なアジアは積極的な日本を必要としている」と強調した。
教授は、日本が自らの戦後の政策、法律を新しい地政学的な現実に適用することができなかったならば、力の空白が生まれ、紛争が発生するだろうと警告した上で、日本が友好的なインド洋、太平洋諸国との連携を図ることで、アジアにおける危険な力の不均衡を抑えることが可能となると結論付けた。
インドの貿易相手国は中国がトップに躍り出るなど中印の経済関係は強くなっているが、同時に中印戦争で煮え湯を飲まされたインドの安全保障面での中国不信は根強いものがある。海洋大国を目指す中国を牽制するためインドの国防費は、この10年で3倍化し、空母も3隻体制へ向け整備されつつある。
インドは米露英仏に次ぐ空母保有や長距離核弾頭を搭載した原潜など海軍増強を急ピッチで進めながら一方で「自由と民主主義」の価値観を共有する国々との連携を強め、海洋大国を国是としてインド洋にも進出を始めた中国を牽制する意向だ。






