資源大国・カザフスタン 産業育たねば「オランダ病」に
中央アジア胎動 中国「新シルクロード」と日本の戦略(4)
「わが国にはメンデレーエフの周期律表に掲げられた全ての元素・鉱物が存在する」
カザフスタン人学生のニュエン・ハン・バオ氏(22)は胸を張って言う。
確かに資源大国カザフスタンには、石油から天然ガス、石炭といったエネルギー資源から、鉄、ウランなど豊富な地下資源に恵まれている。人口は1500万人に過ぎないが、国土はわが国の7倍だ。
2000年以降の8年間、カザフスタンが10%成長を遂げたのは、資源価格の世界的な上昇の恩恵を受けたからに他ならない。さすがに2008年のリーマンショックの影響を受けたものの、2010、11年には7%台の成長に戻している。無論、中国が資源価格上昇の主役だったが、今年、インドのモディ首相がカザフスタンを訪問した最大の理由は、原子力発電に欠かせないウランの確保だった。
カザフスタンの2013年の国民総生産(GDP)は、2319億㌦、一人当たりのGDPは1万3508㌦といずれも中央アジア一の富裕国だ。しかし、資源大国には「オランダ病」に代表される弱点がある。
オランダ病とは、天然資源の輸出により製造業が衰退し失業率が高まる現象を言う。
オランダでは1959年ガス田が発見され、ガス輸出で外貨は稼げ貿易黒字にはなったものの、国力は衰退の一途を辿っていった経緯がある。理由は貿易黒字が自国の通貨を高止まりさせ、資源以外の輸出品が国際競争力を失うようになった。そのため製造業が衰退し、多くの労働者が失業者に転落していった。
そのオランダ病を防ぐためには、資源輸出で得た収益を主要産業の育成と多角化に回す必要がある。
カザフスタンの隣人である中国は、資源獲得に余念がないが、産業発展の伴走者としての能力には乏しい。その意味で日本が出来ることは意外と多いし期待も高い。豊富な資源を活用し、付加価値を付けた加工製品を売ることで、産業力が身に付くからだ。
トヨタ自動車は14年からコスタナイで、中央アジアで初めて現地生産を始めたが、活躍の可能性は大手企業に限らない。さまざまな製品を作り出す技術も機械も豊富にある、わが国の中小企業の活躍の場は中央アジアの至る所にある。
日本政府は2004年以来、中央アジア5カ国と日本の外務大臣の会合「中央アジア+日本」対話を続けている。初回がカザフスタンのアスタナで開かれ、2年に一度開催している。日本が触媒となって、中央アジア5カ国の協力・連携を強化させることを目的としている。5カ国が日本との連携でさまざまな産業を育成することで、将来的には東南アジア諸国連合(ASEAN)にも似た共同体を構築することも夢ではない。
中国は現在、上海協力機構という枠組みに加え、新シルクロード経済圏構想をテコに中央アジア取り込みを図っているが、一方でロシアの影響力も依然として強い。中央アジア諸国はこの2大国の狭間で、未来を切り開いて行かなければならない。しかし中央アジア諸国が一つの地域共同体を構築し、力をつければ、より自律的な行動も可能となってくる。それはわが国にとってもプラスとなることは間違いない。
石油・天然ガスの輸出で資金的には潤ったものの、製造業が脆弱(ぜいじゃく)で輸入依存度が高いカザフスタンやトルクメニスタンなどで、わが国が果たせる役割は決して小さくない。第3次安倍政権は「一億総活躍」を目標に掲げた。現役を引退したシルバー世代が、技術や経験を手土産にこれらの地域で活躍できればとつくづく思う。
(池永達夫、写真も)






