新疆ウイグル自治区ホルゴス 自由貿易特区に4000億円投資
中央アジア胎動 中国「新シルクロード」と日本の戦略(2)
新疆ウイグル自治区北西部にあるカザフスタンとの国境の町ホルゴスを訪ねた。
ウルムチで観光業を営む周浩然氏(35)は「今夏の上海株の暴落はひどかった。しかし、沿岸部の商売は雲行きが怪しくなってきたが、シルクロード経済圏こそは今後、中国経済を牽引(けんいん)することになるだろう」と言う。
ホルゴスの町は上海路だけでなく北京路など沿岸部大都市の名前の道が目白押しだ。
国中から辺境都市ホルゴスに人が集まることから、誰にでも分かる道路名が便利という事情もあるが、具体的に沿海部の資金が落とされている見返りとしての道の名前でもある。いわば冠道路だ。
ホルゴスでは今、押し寄せている大きな波を体感できる。
国境にはビザなしで貨物の積み替えができる物流センターが設置され、以前は大渋滞していたトラック輸送はスムーズに流れるようになった。重慶とドイツ・デュイスブルクを結ぶ貨物列車がホルゴス経由で運行し、1万1000㌔を2週間弱で往来する。今年2月には中国沿岸部の連雲港からカザフスタン最大の商業都市アルマトイまで結んだ貨物列車の定期便も運行し、物流が活発化している。
とりわけ圧巻なのはカザフスタンとの国境をまたいで共同で設置された自由貿易特区だ。
この特区では、互いの国民がビザなしで行き来し、自由売買ができる。その規模が壮大だ。広さは東京ドーム112個分、528㌶だ。ここには衣類にバッグ、靴といった生活必需品から化粧品、携帯、高級ブランド品に至るまでありとあらゆるものがある。1棟2500店舗から3000店舗。それが今の段階で10棟。総店舗数が約2万7500店舗という数も度肝を抜く。ただ、シャッターが閉められたままという店舗も多く、全体の半分程度しか店舗は埋まっていない。中国側投資総額は4000億円を超えるが、過剰投資の感は拭えない。
この状態は甘粛省省都の蘭州でも同様だ。甘粛省は中国のほぼ中央に位置し、中国政府はシルクロード経済圏のゲートウエーにする意向だ。
この蘭州で開発が進む工業団地・蘭州新区では、巨大なインフラ整備が次々に立ち上がり、猛烈な勢いで開発が進む。荒涼としたゴビ砂漠の南端に、石油化学コンビナートや精密機械工場などが林立する大規模な人工都市が現出する。その蘭州新区の規模たるやマンション建設が進む居住区を含めると大阪府に匹敵する巨大工業団地だ。
甘粛省は探査済み鉱物資源が94種類あり、しかもニッケル、銅、アンチモンなど全省1の埋蔵量を誇る鉱物資源が10種類と、資源が豊富な地域だ。この豊富な資源を現地で直接、加工し鉄道や高速道路など陸路を使って中央アジアや欧州に輸出しようというのが中国の思惑だ。
ただ課題は大きい。蘭州省挙げてのビッグプロジェクトに地元企業は誘致できても、他省の有力企業や、海外大手企業の誘致はこれからだ。とりわけ沿岸部の工業団地では海外からの進出企業が次々に撤退し始めている。人民元高と人件費高騰のダブルパンチで輸出型製造業は経営難を余儀なくされているからだ。それでも、どのような企業が進出するか分からないまま、巨大な倉庫やマンションが次々に建てられている。下手をすれば、内モンゴルのオルドスのような鬼城(ゴーストタウン)が量産されるだけに終わる可能性がある。中国はどこでも大風呂敷は広げるが、果たして折り畳めるのか、いぶかるリアリストは少なくない。
(池永達夫、写真も)