「食糧輸入大国」中国の脅威


 中国海外反体制派メディア「大紀元」は2014年5月30日、「中国当局は14年2月、長年採用していた穀物生産の自給自足という方針を放棄した。この政策転換は輸入量を増加させることを意味し、13億人の腹を満たすために世界の資源が搾取されるという意味では、悪い知らせだ」と報じたが、今年の「世界食料デ―」の日(今月16日)、そのHPで「中国に迫る食糧危機」というタイトルで再掲載した。世界の政情にも影響を及ぼす重要なテーマだからだ。

 世界最大の人口13億人を抱える中国が「食糧輸出大国」から「食糧輸入大国」に転落したということは、中国が13億人の国民を食わせていくために世界から大量の食糧を輸入しなければならなくなったことを意味する。その結果、世界の食糧価格の高騰ばかりか、恒常的な食糧不足に悩む開発途上国の食糧事情の悪化など、さまざまな影響が地球レベルで出てくることが予想されるわけだ。

 今月16日は「世界食料デ―」だった。国際食糧農業機関(FAO)のHPによると、「世界食料デ―」は、「世界の食料問題を考える日」として国連が制定した日だ。1979年の第20回FAO総会の決議に基づき、1981年から世界共通の日として制定された。そして 「世界の一人ひとりが協力しあい、最も重要な基本的人権である『すべての人に食料を』を現実のものにし、世界に広がる栄養不良、飢餓、極度の貧困を解決していくことを目的としている」という。

 中国政府は持続的な経済発展のために世界各地でエネルギー確保を目指す“資源外交”を展開させてきたが、原油や天然ガスの確保だけではなく、13億の国民の食糧を確保するために世界各地で食糧外交を大規模に実施していかなければならなくなってきたわけだ。

 中国の場合、13億人の人口、環境汚染問題、残留性有機汚染物質問題などを抱えているだけに、不足する食糧確保のためにはどうしても海外から輸入する以外に選択肢がない。実際、中国の2012年食糧自給率は90%を割ったといわれている。

 大紀元によれば、「2013年、中国の食糧輸入量は6年連続で過去最高を記録し、大豆、小麦、トウモロコシで267億ドルに達する。これは、中国は食糧の輸出大国から輸入大国へのスイッチが入ったことを意味している」という。ちなみに、対中食糧輸出国として米国が全体の2割を占めている。

 年々、その自供率が悪化し、食糧事情が更に深刻になると、例えば、隣国・北朝鮮への食糧支援などは不可能となる。中国の対北食糧支援が途絶えているというニュースは両国間の政治的不協和音が理由ではなく、中国国内の食糧欠如が主因というわけだ。

 国連世界食糧計画(WFP)によると、世界では約7億9500万人が飢餓に苦しんいる。すなわち、世界の9人に1人が健康で活動的な暮らしを営むための十分な食糧を得られない状況下にあるわけだ。全世界において、飢餓と栄養不良の問題は、エイズ、マラリア、結核の健康へのリスクを合わせたものよりも大きいといわれる。中国の「食糧輸入大国」入りニュースは、大紀元ではないが、世界にとって、文字通り「悪い知らせ」というわけだ。

 潘基文国連事務総長は飢餓人口をゼロにする「ゼロ・ハンガー・チャレンジ」を目標にキャンペーンを推進中だが、中国の食糧輸入の増大が世界の食糧事情を悪化させ、飢餓人口を増加させることが懸念される。

(ウィーン在住)