イスラム過激派対策 経済・宗教の総合的取り組みを

2016 世界はどう動く-識者に聞く(21)

「改革と発展党」党首
モハメド・アンワール・サダト氏(上)

 2013年夏、ムスリム同胞団主導でイスラム色を強めたモルシ政権を追放して軍事政権を樹立したシシ大統領の総仕上げとも言うべき総選挙が昨年末行われた。再選された「改革と発展党」のモハメド・アンワール・サダト党首に今後のエジプトの課題を聞いた。(聞き手=カイロ・鈴木眞吉)

どうして政府はシナイ半島に巣食う「イスラム国(IS)」を掃討できないのか。

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 モハメド・アンワール・サダト サダト元エジプト大統領の甥。ムバラク政権下で、人民議会副議長。アラブの春の影響を受けた人民議会選挙でモノフェイヤ県から当選。エジプト外務委員会委員として活躍。改革と発展党党首。昨年12月、シシ政権下の初総選挙で再選。

 軍隊や警察が現在の方針を見直すべきだ。作戦は成功していない。これに関して、シナイ半島の原住民(ベドウィン)と協力関係を築く必要がある。原住民に対する教育や健康、経済発展へのサービスを提供する必要がある。彼らは自分たちをエジプト人だとは思っていないし、母国からのいかなる援助も受けていないと思っている。だからわれわれは彼らを特別にケアする必要がある。

ムスリム同胞団は、ISを含む全過激派組織の母体とされている。英国のキャメロン首相も最近そのことを認めた。政府は近い将来彼らをどう扱うのか。

 ムスリム同胞団は、ISそのものではない。彼らは一度、この国を治める機会を得たが、過ちを犯した。現在グループ内で対立が生じている。獄中にある者と、外部にいる者との間や、古い世代と若い新世代との間などでだ。

彼らが社会の一員になりたいと思うなら、いかなる種類の暴力も停止し、いかなる暴力をも扇動しないとの決断をしなければならない。また、彼らは国家に対する忠誠を示さなければならないし、憲法を尊重しなければならない。そういう条件を満たしたなら、国民は彼らに機会を与えなければならないと思う。しかし時間がかかりそうだ。国民は今、毎日起こる暴力事件や攻撃、殺人にうんざりしており、誰も彼らを歓迎しないからだ。

 サウジなど湾岸諸国は、いつもイスラムグループを、ザカードという献金で支援してきた。今、びくびくして怖がっている。他のアラブ諸国や欧米で起こっているようなことが彼らにもまた起こるのではないかと恐れているのだ。彼らは、イスラムグループに対する財政支援をストップしようとしている。

 英国は、ムスリム同胞団をテロ組織として否定したわけではない。彼らが何をするか注意深く監視することにしたのだ。同胞団の指導者らは、英国政府に、シリアやイラクにおける過激派の情報を提供するなどして協力関係にある。

ISが完全に敗退する可能性はあるか。

 ISは、アルカイダやタリバン、ボコ・ハラムなどのアイデアを吸収して作られた。だからたとえISが敗北しても誰かが別の名前を名乗り新たな組織を作ると思う。

 過激主義グループは軍事力だけで打ち負かせるのではなく、われわれは社会的、経済的、宗教的側面をパックにして考えなければならないと思う。新たな世代の頭脳優秀者や民主主義下で育った豊かな生活をしていた欧州出身者、同じく豊かな生活をしていたサウジの出身者らが、シリアやイラクのISに合流している。

 ISは今日、マグドナルドやケンタッキーフライドチキンのような、フランチャイズ化している。宗教の衣を被った不思議なグループによって、人類は苦しんでおり、血を流している。