東シナ海情勢、日中の緊張激化は不可避

2016 世界はどう動く-識者に聞く(18)

笹川平和財団米国研究員 ジェフリー・ホーナン氏(上)

東シナ海情勢をどう見る。

ジェフリー・ホーナン氏

 ジェフリー・ホーナン 米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)で修士号、ジョージ・ワシントン大学で博士号を取得。国防総省の研究機関、アジア太平洋安全保障研究センター(ホノルル)准教授などを経て、昨年から現職。

 今は南シナ海に注目が集まっているが、東シナ海にも注目が行くのは時間の問題だ。中国は排水量1万㌧の超大型巡視船を就役させたが、その目的は他の船舶に体当たりするためだという見方がある。より小さな日本の海上保安庁の巡視船に体当たりできる中国の大型巡視船が東シナ海に現れれば、緊張を高めることになるだろう。

 また、中国は東シナ海の日中中間線付近のガス田施設をヘリコプターのプラットフォームとして活用する恐れがある。これは中国が日本の動きを監視する能力を高めるだろう。

 現時点では南シナ海ほどの緊張は見られないが、中国の動向を踏まえると、東シナ海でもいずれ緊張が激化するのは間違いない。

中国は沖縄本島よりも尖閣諸島に近い場所に基地を建設している。中国が新たな基地や大型巡視船を積極利用してきた場合、日本が尖閣諸島の施政権を維持している状況が脅かされる恐れはあるか。

 新たな基地は東シナ海における中国のプレゼンスを大幅に高めることになるだろう。ただ、中国が大型巡視船で日本を追い出し、尖閣諸島を占拠するといった行動を取らない限り、日本の施政権が危うくなることはないと思う。米国は尖閣諸島に日米安保条約5条が適用されると明言しており、中国が緊張をそのレベルにまで高める行動を取るとは思えない。

 だが、中国は東シナ海におけるプレゼンスや監視能力を高めることで、「新常態(ニューノーマル)」、つまり、今までと異なる現状をつくり出そうとしている。これは日本がより活発な中国のプレゼンスに対処しなければならなくなることを意味し、東シナ海を不安定化させるだろう。

尖閣有事が発生した場合、米政府は中国との大規模紛争のリスクを覚悟して防衛義務を果たすか、紛争回避を優先するかの選択を迫られることになる。

 国務、国防両省の政策立案者たちは、条約義務を放棄することがどのような結果、影響をもたらすか、よく理解している。韓国やフィリピンなど同盟国が米国のコミットメントに疑問を抱き、オバマ政権が進めるリバランス戦略とは逆効果をもたらすことになる。従って、国務、国防当局者たちは条約義務を守り、中国を押し返すことに全力を尽くすだろう。

 だが、この問題は米政治のレンズからも見なければならない。今年は選挙が行われる年だ。米国がこのような(尖閣有事で選択を迫られる)状況に直面した場合、誰も住んでいない島のために戦うことに異を唱える政治家もいるだろう。例えば、共和党のドナルド・トランプ氏だったら、後先考えずに「岩礁のために中国と戦争などしない」と言うだろう。

 また、オバマ政権はシリア問題で明確なレッドラインを設定しながら、行動を起こさなかった。オバマ政権が(尖閣防衛の)条約義務を果たすと考えたいが、過去の行動を踏まえると、確信は持てない。

尖閣有事に在沖縄米軍はどのような役割を果たすことになるか。

 尖閣防衛の責任は第一に日本にあり、米国は支援任務に当たることになる。低レベルの紛争であれば、日本主導で対処することになるが、中国が総力を挙げて尖閣諸島を奪取しようとしてきた場合は、沖縄の海兵隊や嘉手納基地の空軍だけでなく、第7艦隊も大きな役割を果たすことになるだろう。在日米軍全体の多層的対応となる。

(聞き手=ワシントン・早川俊行)