日米同盟の深化、新指針に基づき協力具体化を

2016 世界はどう動く-識者に聞く(19)

笹川平和財団米国研究員 ジェフリー・ホーナン氏(中)

安全保障関連法の成立で集団的自衛権の行使が可能になったことをどう評価する。

ジェフリー・ホーナン氏

 日本は自国が攻撃を受けなくても、米国を守ることが可能になった。これは日米同盟の抑止力を向上させる。潜在的敵対国は今、米国を攻撃すれば、日本とも対峙(たいじ)しなければならないことを知っているからだ。

日米が同盟強化の次のステップとして取り組むべき課題は。

 安保関連法の成立、集団的自衛権の行使容認を最終状態として満足している人もいるが、日米は同盟を深化させるために取り組まなければならないことがたくさんある。

 新しい日米防衛協力の指針(ガイドライン)には、「同盟調整メカニズム」の設置が盛り込まれた。旧ガイドラインでは調整メカニズムは有事に限定されていたため、東日本大震災でも機能しなかった。震災は有事ではないからだ。新しいメカニズムは、平時、(武力攻撃に至らない)グレーゾーン事態、有事まで、日米がさまざまな事態に協力して対処することを想定している。

 次のステップはその詳細を詰め、具体化することだ。北東アジアでは北朝鮮や中国を通じ、グレーゾーン事態や有事がいつ起きてもおかしくないだけに、詳細を詰めることが極めて重要だ。

 日米同盟の維持は、自衛隊と米軍が連携できるかどうかに懸かっている。米豪同盟では、ハワイの太平洋陸軍など米軍のさまざまな司令部機構に豪州の人員が配置されている。だが、日米ではそうなっていない。それは主に、日本に集団的自衛権の制約があったためだ。だが、集団的自衛権行使が可能になった今、自衛隊と米軍は人員の相互配置を進めることができる。それによって、双方が相手の政策決定プロセスへの理解を高められるとともに、政策決定自体にも関与することができる。

安倍晋三首相が検討を表明した南シナ海への自衛隊派遣をどう思う。

 全面的に賛成だ。安倍首相は就任以来、航行の自由や法の支配の重要性を繰り返し訴えてきた。積極的平和主義の下、それを言葉だけでなく、具体的に示すことが必要だ。

 慎重論があることも理解している。一つは、南シナ海に自衛隊を派遣して尖閣諸島の防衛が手薄になることへの懸念だ。もう一つは、日本が南シナ海に関与すれば、中国を怒らせ、東シナ海で挑発行為を起こす可能性があることだ。

 それでも私は自衛隊派遣を素晴らしい考えだと思っている。日本にはその能力がある。安倍首相が言い続けてきたことを具体的に裏付ける好機だ。

どのような形で自衛隊を派遣したらいいか。

 シンプルに中国人工島から12カイリ(約22㌔)内を海上自衛隊の艦船に航行させるだけでいい。それによって、日本は国連海洋法条約に基づき、中国が主張する人工島から12カイリの領海を認めないとの立場を示すのだ。

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の県内移設は依然、地元の反対に遭っているが、米海兵隊にとって沖縄の重要性は。

 海兵隊が沖縄に駐留する大きな理由は、緊急事態が起きる可能性がある地域との近接性だ。沖縄を中心に円が書かれた図を見て分かるように、グアムに比べて台湾やフィリピンに近い。

 海兵隊が沖縄を離れ、グアム、ハワイ、キャンプ・ペンドルトン(カリフォルニア州)に分散・後退することになれば、米国は条約義務を放棄、少なくとも日本防衛を弱めたという誤ったメッセージを中国に送ることになる。

(聞き手=ワシントン・早川俊行)