日韓関係、「慰安婦」合意は歴史的決断

2016 世界はどう動く-識者に聞く(16)

韓国世宗研究所所長 陳昌洙氏(上)

ここ数年の日韓関係を事実上妨げてきたいわゆる慰安婦問題で昨年末、日韓両国が劇的に合意に達したのはなぜか。

陳昌洙氏

 チン・ジャンス 1961年、南東部の慶尚南道金海生まれ。西江大学政治外交学科卒、東京大学大学院国際関係論修了(政治学博士)。韓国屈指の日本研究家として知られる。著書に『日本の政治経済』など。昨年6月から現職。

 日韓関係というのはお互いが関係改善に乗り出そうとする時期的サイクルのようなものがあって、今回はそれがうまく噛(か)み合った。11月の日韓首脳会談が終わった後、安倍晋三首相がこの問題の年内決着に強い意思を示し、官邸内もそのような雰囲気になったといわれる。韓国も日韓国交正常化50周年の節目となる年が終わる前に解決したいと考え、元慰安婦の被害者たちが高齢であることも決断を後押ししたのだろう。私自身、双方がこのように短期間に内容を詰めて合意に至るとは予想していなかった。そして互いにやろうとする気持ちで一致したのは何よりも日韓関係改善を願う米国の存在が大きい。

合意内容をどう評価するか。

 歴史的決断だ。韓国の国際政治や政治学の専門家らの多くも残念な部分があるとしながらも一定の評価をしている。支援目的の財団を韓国が設立し、そこに日本が10億円程度を拠出するというのは、ひとえに高齢である元慰安婦の方々が存命中に少しでも名誉回復して差し上げたいという思いからだ。合意後、日韓双方は国内で乗り越えなければならないハードルがあるが、日本政府よりも反対世論が強い韓国政府の方が苦しい立場に立たされている。それにもかかわらず合意にこぎ着けたのは、この問題に関心が高く、原則を貫く姿勢で一貫している朴槿恵大統領の任期中でなければ「決着」は難しいという判断があったからだ。

合意後の評価では日韓ともに批判も少なくない。原因は何か。

 日本側としては「最終かつ不可逆的」解決であるという点で韓国がこれを本当に守るのか不信感がある。韓国側は合意内容として発表された「謝罪」に真心がこもっているのか、あるいは日本の政治家などから妄言が飛び出すのではないかという思いを抱いている。合意内容自体が玉虫色であり、まだ双方の認識にギャップがあるのは否めない。

日韓とも国内政治日程をにらんだ「駆け込み合意」だったとも言えるのではないか。

 日本は5月に伊勢志摩サミットがあり、7月には参院選。一方、韓国も4月に総選挙を控えている。このため日韓ともに外交で成果を上げておきたかったのは確かだろう。

今後は合意内容の履行が重要になってくる。

 まず両首脳が合意内容を再確認することが重要だ。もちろん電話会談はしたが、履行を後押しする意味で再確認した方がいい。韓国が日本にまた「謝罪」を要求したり、「責任」を追及することがないよう、また日本も責任ある立場の政治家などが「妄言」を吐くことがないようにする仕組みが必要かもしれない。

 日本側が強く求めている在ソウル日本大使館前の慰安婦を象徴する少女像の撤去問題については、韓国政府が像撤去に反対している市民団体を説得できればそれが一番いいが、猛反発している今の状況では難しい。日本側が今回示した反省と謝罪の立場が変わらないことが韓国側に伝われば、いずれ少女像は財団が作る記念館などに移転される道も開かれる。

(聞き手=ソウル・上田勇実)