膠着状態の南北、4月総選挙で“従北”勢力支援強化も
2016 世界はどう動く-識者に聞く(15)
元韓国治安政策研究所研究官 柳東烈氏(下)
近年、平壌では高層マンションなどをはじめ大型建造物が立ち並ぶようになった。経済は上向きだとする見方もある。
金正恩第1書記の指示でまずはこれらの大型建造物が次々と造られていったとみるべきだろう。しかし、これらは一般住民の生活とはあまり関係ない「見せ物」の意味が大きく、住民の経済は疎外されたままだ。
北朝鮮の経済には五つの部門がある。内閣が管理する人民経済、軍を支える軍需経済、最高指導者の秘密資金である首領経済、党財政経済部が担う党経済、そして多くの一般住民が頼る「チャンマダン」と呼ばれる闇市だ。韓国政府によれば、このチャンマダンが全国で現在約2700カ所以上あり、増加傾向にあるという。
これを市場経済の拡大とみる専門家もいるが、その本質は金第1書記のチャンマダン統制に対する自信感の表れにある。庶民が食の問題を解決するチャンマダンの拡大をある程度は黙認するが、社会主義経済体制を揺るがすほどの影響力を持ち始めればいつでも潰(つぶ)すことができるという自信だ。
韓国の朴槿恵政権は対北朝鮮政策で手詰まり感がある。南北関係の見通しは。
膠着(こうちゃく)状態が続き、大きな関係改善は望みにくいのではないか。金第1書記は新年辞で「誰とでも対話する」と言ったが、これは当局に限らず利害が一致すれば韓国の民間人とも対話する用意があるという意味だ。昨年の新年辞では「最高位級会談」に言及し、南北首脳会談に前向きとも受け止められる姿勢だったが、今年は政府排除だ。北朝鮮が昔から使ってきた「当民分離」、即ち政府を排除して考えが合う親北朝鮮派の民間人とだけ対話をするという典型的な統一戦線戦術といえる。
もちろん朴政権が2010年3月の哨戒艦撃沈事件で発動した韓国独自の対北経済措置「5・24措置」を解除したり、女性観光客射殺事件で中断したままの金剛山観光を再開させるなど、北朝鮮に対し譲歩すれば状況は変わる。だが、そのためには最低限、北朝鮮が謝罪と責任者処罰、再発防止の確約をしなければならない。原則重視の朴政権がこれらを抜きに譲歩に転じるとは考えにくい。
各種の対南工作や武力挑発の恐れは今年もあるか。
北朝鮮の対南工作の基本的目標である「南朝鮮(韓国)を解放し共産化する」に変わりはないが、韓国にスパイを派遣したり地下組織を作る工作部署でも中心的役割を果たしてきた225局が党統一戦線部の傘下に入り、名称も変更するなど幾つか変化も見られる。この機構変化について韓国政府は、50年間の対南工作は失敗だったとい自己反省の下に対南工作を金第1書記がより直接的に指示するようになるという意味だと捉えている。
北朝鮮は韓国国内にいる“従北”勢力に対する支援にも力を入れるだろう。今年は4月に総選挙がある。4年前の前回選挙で“従北”勢力が国会議員に当選し、彼らが所属した統合進歩党の関係者らが実際に韓国の体制転覆を企てたことが明るみになって憲法裁判所から解散命令を下されるという事態にまで発展した。
武力挑発も要注意だが、特に近年警戒すべきはサイバーテロだろう。
(聞き手=ソウル・上田勇実)






