難民250万人が流入

多難な年明けのトルコ(4)

 現在までトルコ国内には、シリア内戦から逃れてきた人々をはじめ、イラクのシーア派偏重政治に嫌気が差したスンニ派住民などが、実に250万人以上滞在しているとされる。

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1月22日、ベルリンで握手するメルケル独首相(左)とトルコのダウトオール首相(AFP 時事)

 イスタンブールを歩けば、難民とおぼしき人々の姿が目に付く。繁華街に座り込んで支援を求める母子、信号待ちの車に近づいて物乞いする子供、通勤用のフェリーボートの中で救いを哀願する男性などなど。それでもトルコに入国した難民が餓死した、というニュースを聞いたことがない。農業国として、食糧供給に余裕があるせいでもある。

 それにしても近隣国の人道的危機とはいえ、人口8000万人のトルコが、250万人もの外国人を受け入れる鷹揚(おうよう)さと能力には驚かされる。難民の大半を占めるムスリムへの共感や、旧オスマン帝国の元領民の子孫たちへの連帯感、またはイスラム圏の兄貴分のような気分もあるかもしれない。

 もっともシリア内戦やイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」問題で、トルコは準当事国のようなものだ。ISへの志願兵員や武器弾薬の大半は、トルコ経由だと専門家は分析している。IS占領下の油田から産出される原油の一部も、トルコの闇市場に流されていたと報じられた。こうしたことから、トルコ政府はISに中途半端だ、という批判や、実際には連携しているのでは、といった臆測まで流れた。

 ただトルコの立場から見れば、ISはもともと、シリアの内戦でアサド政権打倒を目指した反政府勢力の一つだったから、少なくとも当初の目的はトルコ政府と一致する。ある段階まで連携していたとしても不思議ではない。それはシリアの反政府勢力を支援するイスラム・スンニ派の強いエジプトやサウジアラビア、湾岸諸国も同じだ。

 しかし10月にトルコの首都アンカラで起きた、トルコ史上最悪、とも表現された爆破テロ事件で、ISの関与が固まった時点で、トルコ政府は決断したようだ。対IS作戦に米国が要請し続けてきた、トルコ南部アダナ郊外にあるインジルリク軍用空港を、米空軍が使用することを認めたからだ。トルコ空軍もISを標的にした空爆を本格的に始めた。

 難民問題にもトルコを積極的に支援する動きが欧州で高まっている。最近パリで起きたテロ事件の犯人の中に、難民に紛れたテロリストがいたことが証明され、一気に「難民お断り!」の世論が高まって、欧州連合(EU)全体の大きな政治問題になってきたからだ。メルケル首相の強い信念に押されて「難民歓迎!」の旗を掲げたドイツでさえ、国境管理や難民認定を厳格にし始めた。EUは難民・移民の欧州流入制限にトルコが協力することの見返りに、約3900億円の対トルコ支援を発表した。

 12月のトルコ滞在中に読んだトルコ紙のダウトオール首相の発言によると、難民問題でのトルコの協力態勢如何(いかん)で、トルコが30年以上も求め続けてきたEU加盟交渉の進展もほのめかされているという。ヨーロッパの一員になるという、20世紀初めにトルコ共和国が建国されて以来の国是をあくまで追求しようとしている。

(世界日報元トルコ特派員・山崎喜博)