景気低迷と通貨安がトルコ直撃

多難な年明けのトルコ(3)

 日本・トルコ合作映画「海難1890」に敢えてひっかけて言えば、今年のトルコは「国難2016」に直面するかのようだ。トルコ政府は昨年12月、対「イスラム国(IS)」作戦を本格化すると決断したので、今後さらにテロリスクは高まり、それは観光業を直撃するだろう。

800

昨 年11月15日、ト ルコのアンタルヤで開催したG20首脳会議で記念写真に納まる各国の首脳(AFP 時事)

 しかし一般庶民が難儀に感じているのは、景気低迷と通貨安で、経済と暮らしが直撃されていることだ。通貨「リラ」は昨年30%以上も下落した。しかも米連邦準備制度理事会が最近、ゼロ金利政策をやめると発表したため、他の新興経済と同様、トルコリラには一層の減価圧力が高まると見られる。昨年夏から続いた混迷政局を克服したばかりの政府に、国民が一番期待している景気回復を実現できるか。

 単独与党の公正発展党(AKP)は、2002年に政権についた選挙を含め、3度の総選挙で国会議席の過半数を獲得してきた。その人気の理由は、同党の宗教色にもよるが、経済・社会政策への評価が高かったせいだ。

 AKP以前の歴代政権下では、主に放漫財政が原因で長年、狂乱インフレに見舞われ、国民生活には重苦しさが漂った。AKP政権下でインフレは目に見えて抑えられ、行政の効率化、社会の利便性、経済の活性化が進められ、一般庶民の暮らし向きは確実に向上した。トルコ経済は順調に成長し、新興経済の希望の星のひとつと見なされた。

 そうしたトルコ経済・社会の改革・成長の実績を評価するように、昨年11月中旬、トルコの南西部のリゾート地、アンタルヤを舞台に、G20の首脳会議が行われ、日本の安倍首相も出席した。実力派大統領として各国首脳を迎えたエルドアン氏は、面目躍如たるものがあったはずだ。中東のアラブ諸国でも、イスラム社会の近代化モデルとして、トルコに学べ、という声は高い。独裁的な国で政治・社会改革を求める大衆行動が高まった、いわゆる「アラブの春」で、唯一の成功例、と言われるチュニジアは、その代表的な例だ。

 しかしエルドアン氏が首相、そして大統領として率いた13年の長期政権に、国民の強い反発が表明されたのが昨年6月の総選挙だった。与党の公正発展党は過半数を確保できず、しかも組閣のための連立工作に失敗したのだ。大統領は暫定政府を立て、5カ月後に再選挙、という奇策に打って出て、辛うじて与党は過半数を確保した。ダウトオール首相率いる内閣は12月、ちょうど記者がイスタンブールに滞在していた時期に成立した。

 トルコの憲法上では首相が最高権力者で、大統領は象徴的な位置だ。しかしAKP政権の実態が「エルドアン政権」であることは誰の目にも明らか。大統領もそれを隠す様子もない。ロシアとの緊張が高まる中、トルコの有力コラムニストは、トルコの大統領がますます「プーチン流」になっていると皮肉った。日本政府はトルコと「経済連携協定」の締結を目指して交渉中で、つい最近、トルコの首都アンカラで4回目の協議が行われ、次は東京で行われる。日本との経済協力が「国難2016」を軽減するのに大きな貢献をして、「海難」以来の両国間の友情の証を立てられるのか、注目されるところだ。

(世界日報元トルコ特派員・山崎喜博)